
■外部ネットと接続不要
カルテのみでなく、診療情報提供書や入退院時看護サマリーなど、医療現場では文書作成業務が日々発生する。それに対して生成AI技術を活用し、医療現場のDXを推進する医療支援サービスがオプティム(東京都港区)の「OPTiM AI ホスピタル」だ。
電子カルテシステムと連携し、生成AIにより診療録や入退院時看護サマリー、診療情報提供書などの文章を適切に作成する。例えば医師向けのカルテの作成支援では、診療中の患者との会話データや電子カルテ情報を基に、カルテの下書きを行う。
他院への紹介状である診療情報提供書や、看護師が患者の入退院時に書く看護サマリーも、電子カルテの情報を基に作成できる。患者番号の入力を行い、そこから電子カルテの情報を取得し、作成する。所要時間は、従来の半分程度となる。
医療従事者は本来の業務以外にも、患者の記録や各種報告書の作成など、多くの間接業務に時間を割いている。とりわけ、看護サマリーや診療情報提供書といった文書作成業務は、大きな負担となっており、時には過度の時間外労働を引き起こす要因にもなる。
「OPTiM AI ホスピタル」はそういった医療従事者の負担軽減と、医療現場における業務効率化を目的として開発された。近年はこういった文書作成業務における課題に対して、生成AIの活用が注目されている。一方で、生成AIを活用するための既存の大規模言語モデル(LLM)サービスの多くは、インターネット接続を必要とするクラウドベースのソリューションとなっている。医療機関では個人情報保護が特に重要視される環境なだけに、セキュリティー要件を満たすための追加コストが必要となることが、導入の大きな障壁になっていた。これらの課題を解決するため、同サービスにおいては外部インターネットとの接続を一切必要としないオンプレミス環境で動作が可能なLLMとした。
LLMと外部からの情報検索機能を融合させる技術である「RAG」と呼ばれる技術を活用する。このアプローチにより、生成される回答の質と精度が向上し、より最新の情報に基づいたテキストが提供されるようになったという。
導入後のサポートについては、四半期ごとの定期アップデートに加え、セキュリティーアップデートを迅速に適用。新機能の追加や既存機能の改善を計画的に実施する。ユーザーに対して定期的にヒアリングを行うほか、医療現場からの改善要望を製品開発に反映する。
導入効果最大化のためのサポートとして、業務量調査方法の指導など、ROI達成のためのアクションプラン策定支援を実施する。運用定着化に向けたフォローアップや、効果測定のための指標設定支援も行う。
■外部システムとの連携も
「OPTiM AI ホスピタル」では、デジタル化がさらに進む将来を見据えた拡張性の確保も行っている。現在、対応する電子カルテは株式会社シーエスアイ製の「MI・RA・Is(ミライズ)/AZシリーズ」「MI・RA・Is/AXシリーズ」だが、別の電子カルテシステムにも対応を進めていく。さらには今後利用の増加が予想される、ウェブを介して医療情報を共有するための国際標準規格「HL7 FHIR」や、厚生労働省が整備する電子カルテ情報共有サービスへの対応も進めていくという。さらなる業務の効率化のため、これまでのデータの蓄積が進んでいる診療情報管理システムや、文書保管サービスとの連携といった相談にも応じる。他システムとの連携などはホームページにおいて相談を受け付けており、医療機関に寄り添い業務効率化へ取り組む。
オプティムでは、特に現場の声を重視した製品開発のため、四半期ごとのアップデートにおいて、フィードバック改善を積極的に取り入れた機能改善や新機能の実装を行う。また、医療のデジタル化が急速に進む中で、さまざまな外部システムとの連携も重視している。拡張性を確保し、医療現場の運用体制の変化や、ニーズの多様化にも柔軟に対応することを可能としていく。
社会医療法人祐愛会織田病院(佐賀県鹿島市)では、2024年3月から電子カルテと連携した「OPTiM AI ホスピタル」の運用を開始した。導入効果として最も大きかったのは、入退院時看護サマリー作成時間の大幅な効率化だったという。導入前は1件当たり平均16.31分を要していたが、導入直後に33.2%短縮の平均10.90分となり、使用3回目以降は54.2%短縮の7.47分まで効率化された。使用回数を重ねるごとに、作業効率が向上しているという。
特に看護師からは「サマリー作成の負担が大きく軽減できた」「より多くの時間を患者のケアに充てられるようになった」といった声が寄せられている。また、AIが過去の記録から必要な情報を適切に抽出・構造化することによって、より質の高い記録作成が可能になったとの評価も得ている。今後は医師が作成する診療情報提供書の作成支援にも対応を広げる。
医療現場の働き方改革が求められる昨今ではあるが、「OPTiM AI ホスピタル」の開発により、医療従事者は文書作成業務の負担が軽減され、本来の業務により多くの時間を充てることが可能となる。医療サービスの質の向上に寄与し、ひいては患者へのより良い医療の提供にもつながっていく。「OPTiM AI ホスピタル」は新機能や外部システム連携で、さらなる導入拡大を目指す。
▽株式会社オプティム「OPTiM AI ホスピタル」
https://www.optim.co.jp/optim-ai-hospital/
【関連記事】