
■処方箋にタグ
TOPPANエッジ(東京都港区)では、「RFID(無線周波数識別タグ)を活用した病棟向けの調剤工程管理システム」を提供する。電波によって無線でデータの読み取りを行い、物の識別や管理を行うRFIDによって、調剤工程を効率化し、作業負担を軽減する。
「RFIDを活用した病棟向け調剤工程管理システム」は、入院患者の調剤状況をリアルタイムに把握できる。薬袋と処方薬を挟むピンチにRFIDタグを装着。電子カルテオーダリングシステムにある患者ID、患者名、処方内容といったデータと、RFIDタグのひも付けを行う。これによって、調剤状況をリアルタイムで配信できる。
処方箋のバーコードをリーダーで読み取り、ピンチのRFIDタグに情報をひも付ける。ピンチは処方箋に取り付けられ、処方箋が回る先々の工程において、リーダー・ライターにRFIDタグ付きの処方箋をかざす。調剤状況をリアルタイムでウェブアプリや院内モニターで確認できる。これによって、看護師は薬剤部へ調剤状況を問い合わせる必要がなくなる。
RFIDタグの読み取りは、調剤作業の中で負荷なく読み取れる運用のため、従来の調剤フローを大きく変えずに、合理化・効率化を可能としている。
この「RFIDを活用した病棟向け調剤工程管理システム」は医療情報業界標準規格であるHL7通信方式を用いて、院内1,300台の電子カルテ端末に同時配信可能なウェブアプリケーションにより、薬剤部内の調剤状況の可視化を行うほか、調剤作業中断による医療インシデント発生のリスク低減にもつなげることができる。
運用サポートについては、導入時に病院のPCへのインストールや、設置医療機関に応じた適切なRFIDリーダーの選定、医療機関の情報システム部と連携した院内への端末・RFIDリーダーの設置作業などを行う。初期の操作説明会も必要に応じて実施する。
システムで利用するRFIDリーダーは、万が一の故障時には機器を交換することで迅速に復旧する。予備機を所有することを推奨するが、メーカーに送る修理交換も可能に。必要に応じて、オプションでカスタマイズデータの抽出といったデータ調査など管理者サポートも提供する。電話やメールで問い合わせに対応し、緊急時は担当者が現場に駆け付ける。
病棟看護師の仕事は、患者の観察や記録、服薬管理、医療処理や教育など多岐にわたる。中でも服薬管理については、正確に実施しないと患者に深刻な影響を及ぼす可能性があり、患者の安全確保と治療効果の最大化のためにも、重要な業務である。
病棟数の多い病院では薬剤部が混雑するケースも多く、入院患者の薬剤が病棟に届いていない場合に、看護師が薬剤部に直接電話で問い合わせ、調剤の進捗確認を行うこともあるという。薬剤部では電話が入るたびに調剤作業の中断が起こり、作業効率の低下や調剤業務の滞留が発生する。大きな病院では1日当たり数百件の調剤を行いながら、電話に応対するケースもあり、かける側にも受ける側にも負担が生じる。
看護師は、入院患者に投与する薬剤の調剤の進捗が分からないと、患者により最適な服薬のタイミングがあるため、段取りが立てられない。薬剤部は入院患者だけでなく外来向けの調剤にも対応する必要があり、調剤作業中断による効率の低下や、調剤ミスにつながるリスクを減らしたいという。
■電話が半減
2011年から、こういった悩みを抱えていた群馬大学医学部附属病院の旧医療情報部(現システム統合センター)、薬剤部、旧トッパン・フォームズ(現TOPPANエッジ)の3者で共同開発を行ってきた。サービス導入前に薬剤部で利用していたプラスチックピンチにRFIDタグを貼り付け、繰り返し利用可能にすることで、費用を低減。11年に薬剤部内の工程のひとつとして取り入れ、22年に病棟への到着確認までトレース範囲を拡張した。
11年の導入時に、医師・看護師も調剤工程を電子カルテ端末から確認できるようになり、薬剤部への電話問い合わせは半分に削減した。看護師は1日約150件、調剤状況をシステムから確認したという。薬剤部も電話応対による作業中断が大幅に削減されたことで、作業効率が上がり、調剤ミスが低減した。タグ読み取りの運用も簡単で、さらには各調剤工程の作業時間を統計的に収集できた。そのデータを基に、滞留しがちな工程を明確にし、業務改善にも活用した。
22年にトレース範囲を病棟に展開した時は、病棟各フロアのスタッフステーションなど16カ所にリーダーを設置して、可視化工程を拡張。薬剤部から払い出し後の病棟各階のスタッフステーションへの到着も分かるようになった。以前は患者が転棟した際などに、薬剤の配達先が異なっていると、正しいスタッフステーションを見つけるのに手間がかかった。RFIDを活用した病棟向け調剤工程管理を導入し、到着先までの可視化が可能となった。
群馬大学医学部附属病院システム統合センター副センター長の鳥飼幸太准教授は、「RFIDを活用した病棟向け調剤工程管理の病棟展開により、医療情報標準規格のHL7v2規格の後継であるHL7 FHIR規格の実装を速やかに行う土台として、配薬、服薬、退院時処方を含むトレーサビリティーが機能することを実証した」と評価。「タグ運用が薬剤以外の医用物品に拡大されると、親和性の高い搬送ロボットや識別ロボットとの協働も見込まれる」として、さらなる応用展開にも期待を寄せている。
▽TOPPANエッジ株式会社「RFIDを活用した病棟向け調剤工程管理システム」
https://rfid.toppan-edge.co.jp/example/detail02.html
【関連記事】