■医療現場を支える「Sail AI」の革新性
ispec(東京都品川区)の「Sail AI」(セイル エーアイ)は、訪問診療やリハビリ、病棟回診などで移動したり、処置したりし“ながら”の利用をイメージしたAI音声入力システムだ。医療現場での「デスクの前にいないと情報が見られない」「カルテ記録ができない」という物理的な課題解消に貢献する。
Sail AIの特徴は、▽AI音声入力による構造化データの作成▽タイムライン表示とワークリスト▽オンプレミス環境との安全な接続―の3つ。
文字起こしした情報は、カルテにそのまま転記可能な構造化データとして生成されるため、再入力などの作業を抑えることができる。患者ごとに記録された、この情報はタイムラインで閲覧できるだけでなく、ワークリストとしてその日の担当患者の管理が可能に。訪問診療やリハビリのルートに合わせて必要な患者情報だけをモバイル端末で即座に呼び出し、直感的に記録・参照が行える。
こうしたことを大規模な改修投資をせず、実現できるのがSail AIの最大の特徴だ。院内に専用機器(CloudSail)を設置するだけ。それにより、セキュアな環境下で、オンプレミスの電子カルテとクラウドAIサービスを安全に接続できる。
Sail AIは、ispec代表・谷村朋樹氏の医療現場勤務での苦い経験がベースになっている。大学時代からAI研究に携わってきた谷村氏は2024年、100床規模の回復期病院の「DX推進室」で勤務した。病院の役割は「建物の中で患者を待って治療する」スタイルから、「地域に出て人々の健康を支える」スタイルへと急速に変化しつつあると捉えていた谷村氏。だが、当時の医療現場はITインフラ整備が進んでおらず、仮に対応しようとすれば膨大な改修費用が発生することは自明の理だった。一方で、「この構造的な課題を解決しなければ、地域医療は崩壊する」。こう確信していた谷村氏は、Sail AIの開発・販売を手掛けるようになった。Sail AIの3つの特徴には谷村氏の「地域医療を守る」という思いが隠されている。
■カルテ記録時間を90%削減
総合川崎臨港病院(神奈川県川崎市)は、訪問診療部門にSail AI を導入した。以前は、訪問後のカルテ入力業務には1人当たり1日約4時間を費やしていた。記録関連業務が月80時間に及ぶことも。Sail AIを導入したことで、移動中の車内や訪問先での隙間時間を活用してAI音声入力を行い、院内の事務スタッフがそれをリアルタイムでカルテに転記する仕組みを構築できた。これにより、帰院後のカルテ記録時間は90%削減され、全体の事務作業時間も50%以上短縮された。残業時間も大幅に減少した。
総合川崎臨港病院のスタッフからのSail AIへの評価は上々だ。「業務がスムーズになり、帰宅が早くなった」「以前は遅くまで記録残業が当たり前だったが、今はほとんど残業せず定時に帰れる」「帰院したらカルテ記録がほぼ完了しており、確認するだけで帰れる」などをはじめとして、労働環境の改善につながったと受け止めているスタッフは少なくない。
業務効率化は単なる負担軽減にとどまらず、訪問診療の受け入れ枠拡大といった経営面での成果にもつながっている。また、チーム内での情報共有の質が向上し、訪問内容や背景情報を即座に把握できる仕組みを整備したことで、スタッフ間の連携も深まった。さらに、リハビリテーション部門や病棟業務などにも応用が進み、記録に追われるストレスが軽減したことにより「仕事が楽しくなった」「仲間が増えると良い」といった前向きな声が増えている。
「Sail AI」は単なる業務効率化のためのツールにとどまらず、医療者がより患者と深く向き合う時間を確保するための重要な基盤に。そして、地域医療を支える上での欠かせない要素になっている。
▽株式会社ispec「Sail AI」
https://ispec.tech/service
▽「Sail AI」説明動画
https://ispec.tech/sailai
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