薬局の営業職からサ高住の施設長に転身
薬局のM&Aで友好的な関係を築くには?(中)
「従業員のほとんどは当初、M&A にいい印象を持っていませんでしたが、今では譲渡してよかったと思っているでしょう」―。滋賀県で運営していた調剤薬局をメディカルシステムネットワーク(メディシス)の子会社に譲り渡した元経営者の息子の塩飽彬さん(32)は、従業員のM&Aに対する受け止めの変化をこう語った。そして、自身も新しい仕事に挑戦できるなど、そのメリットを実感している。
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滋賀県の大津市や栗東市などで7つの調剤薬局を運営していたメディカルブレーン(当時)は、「地域に根差した薬局」を目指して特に在宅医療に力を入れていた。同社が運営する「わに薬局」は住民から親しまれるようになり、経営は順調に推移していたが、大きな悩みの種があった。
それは薬剤師不足だ。滋賀県は、全国的に見て薬剤師が採用しにくい地域とされており、メディカルブレーンも薬剤師の採用に苦戦を強いられていた。経営はある程度軌道に乗っていたものの、メディカルブレーンは2014年7月、株式会社キャリアブレインのM&A支援サービス(現在は株式会社CBパートナーズに分社化)を利用し、メディシスの傘下に入った。譲渡の最大の理由は、やはり人材不足だった。
M&Aをした後にCBnewsが取材してから4年経ち、その後の「わに薬局」はどうなっているのか―。
「父が人材の採用に苦労しているのを知っていたので、薬局事業の譲渡はある程度仕方がないことだと思いました」。塩飽さんは、当時の経営者だった父親からM&Aの話を聞いた時の心情をこのように語った。
■M&Aでネックだった薬剤師不足が解消
では、メディシスに傘下入りしたことで、薬剤師確保の問題は解決したのか―。
「わに薬局を引き継いだ店舗で薬剤師が足りなくなった場合、他の地域のグループ薬局が人員を補充する体制ができています。薬剤師を多く抱えるメディシスにグループ入りして、薬剤師不足の懸念はほとんどなくなりました」。塩飽さんは、人材確保の課題はある程度解決したとの考えだ。
塩飽さんは、M&Aによるメリットを他にも感じている。それは、多角化経営を推進するメディシスで、さまざまな業務に携われることだ。メディシスは、薬局事業だけでなく、訪問看護事業やサービス付き高齢者向け住宅の運営なども手掛けており、従業員には適性に応じた業務や役職に就いてもらっている。
■メディシスへの譲渡は正しい判断
塩飽さんの場合、当時のメディカルブレーンで約5年間、在宅医療に関する営業をしていたこともあり、譲渡後は滋賀県の薬局で営業を担当した。しかし、1年も経たないうちに、メディシスのサービス付き高齢者向け住宅「ウィステリア千里中央」(大阪府豊中市)の立ち上げに参加。入居者を募る営業を担った。
「人と接する営業職が好きで、メディカルブレーンの時には高齢者住宅を頻繁に訪問していたので、サ高住の営業もできると思いました。薬局だけでなく、サ高住の立ち上げに携わることはスキルアップにつながります。仕事の幅が広がったことが最大のメリットです」。塩飽さんはこう語り、メディシスへのM&Aは正しい判断だったと振り返った。
他の従業員らの受け止めはどうだったのか―。
メディカルブレーンで働いていた薬剤師らのほとんどが、M&Aを知って動揺した。「従来よりも給与が減るのではないか」といった不安がよぎったからだ。
しかし、実際は譲渡後も、その薬剤師らの給与水準は変わらなかった。一方、休暇に関しては従来よりもしっかり取得できるなど、改善されたことが多かった。そのため、「かつての従業員は、M&Aが事前に想像していたのとは違い、むしろよかったと前向きに受け止めていると思う」と塩飽さんは指摘する。メディカルブレーンで勤務していた従業員のほとんどは、メディシスのグループ薬局でさまざまな業務に携わっているという。
■サ高住の施設長に就任
塩飽さんはウィステリア千里中央で営業職を2年ほど経験した後、18年4月に施設長に抜てきされた。
「メディカルブレーンの時には、今の職種や地位に就くことになるとは思ってもいませんでした。責任は重大ですが、とてもやりがいを感じています。同一建物にある病院や同じ敷地内にあるグループ薬局などと連携しながら、医療や介護、予防、住まい、生活支援などが一体となった、安心して暮らせるサ高住を目指します」。塩飽さんは、このように意気込みを語った。
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