社員が変化するために必要な3つのプロセスとは?
経営者のコミュニケーションスキル向上講座
■ある薬局経営者からの相談事例
調剤薬局を9店舗経営するS社長から、組織に関する相談がありました。2020年度診療報酬改定も決まり、「薬局を取り巻く環境はますます変化している」とS社長は言います。それなのに、古参の薬剤師は目の前の業務にばかり集中して、変化に対応する気がないと不満げです。先日も、「この店舗でも在宅を始めたい」と打診したところ、否定的な反応ばかりが出たそうです。さらに、「まるで変わることを無視しているようにも感じる。経営者として、どんなコミュニケーションを取ったらよいのだろうか?」と話します。
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薬局経営が厳しくなっていくのは、疑いようもない事実です。今回の新型コロナウイルス感染症に加え、人口動態や社会保障などの外部環境が変化していく中で、中小の調剤薬局は地域において淘汰されていくでしょうし、調剤薬局の役割そのものが変わっていくのは、当然のことと言えるかもしれません。
経営者として変革を急ぐ気持ちは分かりますが、やみくもに進めようとしてもその効果が見込めません。どんなアプローチが効果的かを論じる前に、まずは対象者がどのような状況にあるかを把握することが重要です。心理学者のクルト・レヴィンによる変革のモデルを参考に、変化を受け入れる「3つのプロセス」を理解した上で、実際のビジネスの場面にふさわしい正しい打ち手を実行しましょう。
■変化のプロセスを理解する
変化に直面した時、人はどのような心理のプロセスを経るかについて理解します。その上で、相手が今、どのステージにいるのかを把握することが先決です。置かれている状況が違えば、有効な打ち手が変わっていくからです。
【変化のプロセス】
変化は、第1段階の「変化の拒絶」、第2段階の「変化の受け入れ」、そして最後の第3段階の「新たな行動」というプロセスをたどります。それぞれの状況を理解した上で、相手がどのステージにあるかを把握し、それに合った対応方法を行うことが求められます。では、それぞれのステージを段階的に解説していきましょう。
【第1段階:変化の拒絶】
第1段階では、変化に対する「驚き」の感情が生まれて、思考停止や無視という反応を示します。次に、変化に対する否定や怒りといった、「抵抗」の行動を取ります。特徴として、変化そのものを拒絶している段階だと言えます。
<反応例>
このような状況を前にすると、変革を推進したい者(S社長)は、相手に働き掛けることを諦めてしまいがちですが、この反応は、変化を受け入れる前に起こす適切な“拒否反応”です。この第1段階が存在することをあらかじめ知っておくことは、極めて重要です。
拒否反応への具体的な対応方法としては、話をするタイミングを変える、相手が否定する理由を丁寧に聞く、さらには相手の主張を「感情」と「事実」に分けて整理する-などが挙げられます。ネガティブになり過ぎず、相手が変化の過程であるという認識で、根気強くアプローチしていくことが大切です。
【第2段階:変化の受け入れ】
第2段階では、相手は変化に対して「諦め」へと感情が移行し、喪失感への代替の要求という行動を取ります。その後、「一部受け入れ」の反応を示し、変化への議論や条件付きの同意という行動へと移ります。特徴として、変化自体は受け止めているものの、「全ては同意できない」という点で、「諦め」と同じ段階にあると言えます。
<反応例>
この状況は、相手の主張に対する抵抗や否定を感じつつも、自分が変化する必要性を内的に受け入れているステージになります。言い換えれば、変革を推進したい者(S社長)のアプローチによって、相手の行動が大きく変わる可能性がある状態です。状況を見極めながら適切な対応方法を目指しましょう。
具体的な対応方法としては、現状維持によるデメリットの説明、変化の目標や期限の緩和、冷静に考える場の提供、フィードバックで客観視を促す-などが挙げられます。
大事なことは「感情」と「事実」を切り離すことです。変化を自分の感情から切り離し、以前と違う視点や発言があれば、受け入れが進んでいると捉えて、その視点や発言を歓迎する(思考の柔軟性にフォーカスする)ことで、次のアクションへ移りやすくなります。
【第3段階】新たな行動
最後のプロセスでは、変化に対して「行動」し、「率先者」としての反応を示します。変化に対し、前向きな行動を起こすステージです。変化への対応や前向きな議論を行い、さらに進化すると、自分自身が率先して行動し周囲を巻き込んでいくステージへと移ります。
<反応例>
このステージへ移行できれば、変化に対して前向きな行動を起こす人材になりますが、さらにその動きを強化していくために、望ましい対応方法があります。
具体的な対応方法としては、役割の明確化、変化がもたらしたメリットの共有、変革の担い手として期待・賞賛する-などがあります。
■今回のまとめ
「経営者は社員に変化してもらうために、どうコミュニケーションすべきか?」という相談に対する回答は、「相手の状況をプロセスに分けて把握することが先決」です。その上で、ふさわしいコミュニケーションを選択し、実行してください。
この過程における対応のポイントをおさらいします。
【ポイント】
1.変化を受け入れるためには、感情のプロセスが3段階存在する
2.相手にネガティブ反応が出ても、変化を受け入れるための適切な拒否反応と捉える
3.相手の状態に合わせ、適切な対応方法を選択し、アプローチをし続ける
あくまでも目的は、相手に理解・行動してもらうことです。相手の状態を理解しながら、「どうしたら次のプロセスに進むのか」という視点で接することが求められます。変化が必要なケースに直面したら、この3つのプロセスを思い出してください。
(文:株式会社CBコンサルティング 取締役 藤本進)
筆者プロフィール
藤本進(ふじもと・すすむ)
1979年東京生まれ。中央大学商学部経営学科卒業後、ベンチャー企業(通信OA機器販売会社)を経て、2007年に株式会社キャリアブレインに入社。東日本統括マネージャー、経営企画部で営業部門の教育担当を歴任。16年には、厚生労働省委託事業「介護分野における人材確保のための雇用管理推進事業」(中・四国ブロック)を受託。事務局長として、中・四国ブロックの人材定着のための調査・普及活動を行う。17年に株式会社CBコンサルティング代表取締役就任。18年に株式会社CBナレッジ代表取締役に就任した後、現職。
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