お皿で“演出” おいしい病院食に挑む
医師と給食・プラ加工の2社が新素材で共同開発 PR
料理を盛り付ける皿に着目し、「おいしい病院給食」を提唱する取り組みが動き出した。術後の回復に大きな影響を与える食事。おいしく食べて、しっかり栄養をとってもらいたいとの患者への医師の思いを、給食会社とプラスチック加工会社がタッグを組み、食器「ZEN」として形にした。食器の色は黒。当たり前となっている病院給食での白色のメラミン食器とは対照的だ。ここに、おいしさを引き出す“演出”がある。主菜皿を第一弾として投入し、茶碗、汁椀など後続も見据えるZENの誕生秘話を伝える。
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肝胆膵領域で高度な手術を多く執刀する東京慈恵医大の医師・丹治芳明氏。術後、患者からこんな声を耳にする。「ごはん食べたくない」。理由を尋ねると「おいしくない」と言われることもある。病院給食への患者への不満は、いま始まったことではない。「味が薄い」など嗜好への不満は、長年変わらない。ただ、患者に提供する病院給食は、病状に合わせて塩分など細かくコントロールされるため、それぞれの嗜好に対応するのは限りがある。医師として、歯がゆさを感じる中、病院給食を冷静に見渡すと、長年変わらないものがもう1つあった。食器だ。
一般的に多くの病院では、白色のメラミン食器に、薄味の食材を盛り付ける。「この食器で、食欲がわくのか」。丹治氏は頭をもたげた。
丹治氏は、小・中学校で同級生だった大谷公輝氏に連絡を取った。大谷氏は栃木県小山市で病院や介護施設で給食事業を展開する「コモス」の代表。ピンク色のトレーの上に、白色のメラミン食器が並べられる病院給食を当たり前と思っていた大谷氏にとって、丹治氏の疑問は、新鮮に感じた。なぜ、メラミン食器なのか-。病院で使う食器も食品衛生法の規制対象ではあるが、「調べるとメラミン食器でなければならない理由はなかった」(大谷氏)。
コモスは介護施設にも給食を配食する。「入居者さんは、食べることを楽しみにしている。多くの行事食や、毎月1日に赤飯を提供し、月が替わったことを食材で楽しんでもらっており、食器にも食を楽しむための改善ができるはずだ」。大谷氏は、こう直感した。介護施設も、給食を盛り付ける食器は病院と同じメラミン製。丹治氏と同じ歯がゆさを感じていたからだ。
2020年ごろから、2人はおいしく食べられる病院給食の食器の検討を始めた。その際、丹治氏がまず重視したのは食器の色だ。色と食欲増進の関係に注目した。「病院給食は、薄味のため、食材の色も薄い傾向にある」(大谷氏)。白色のメラミン食器に、色が薄い食材を盛り付けるため食欲が高まらないのではないか。2人は、こう仮説を立て、食器の色を考えた。目を付けたのは色のコントラストだ。患者が目で見て、何の食材なのかを、すぐに、はっきり、わかりやすくする「視認性」を高めることで食欲増進につなげようとした。過去の医学研究でも、食材と食器の色のコントラストが食事量に影響を与えるという報告があったことも彼らの仮説を後押しした。複数の高齢者施設で実際に提供されている1ヶ月分の食事の写真を集めてみた。結果、食材の色は薄いものが大半だった。そのコントラストが最も強く映えるのが黒色であると2人は考えた。
黒色の食器を作りたい。2人のアイディアは固まったと同時に大きな壁が現れた。その食器を誰が作るかだ。プラスチック加工の技術を2人は持ち合わせていない。製造会社を見つける日々が続いた。「興味深く話は聞いてくれるが、いざ製造までの話になると途端に担当者の声色が変わってくる」。丹治氏は当時を振り返る。もっとも製造会社の反応が鈍いのも無理はない。圧倒的な市場が形成されている病院給食でのメラミン食器へ戦いを挑むわけだから。
着想から3年が経つが、おいしい病院給食の食器を作ってくれる企業は現れない。「それならば自分たちで作ってしまえ」。30代前半という若さが、2人の開拓精神に火をつけた。ただ、自分たちで作るのであれば、なおのこと、プラスチック加工会社の問題は避けて通れない。 2人は、足元から見つめなおした。するとコモスから車で20分くらいの所にあるプラスチック製品の製造・開発・販売などを手掛ける「サカエ工業」に目がとまった。サカエ工業は、衝撃性や耐久性に優れているトライタンという素材を使ったタンブラーで、グッドデザイン賞を受賞している。実は、2人は、このトライタンという素材での食器にこだわっていた。メラミン食器の特徴は衝撃性と耐久性の高さだ。トライタンは、メラミンと十分勝負できるほどの衝撃性や耐久性を持つ。プラスチック加工会社探しで難航したのは、このトライタンの採用に二の足を踏んでいたからだ。「トライタンは高い加工技術が必要になる」(池添亮社長)という。
池添氏に、病院給食を盛り付ける食器に対する思いをぶつけた。「やりましょう」。3年間開かなかった扉を2人がこじ開けた瞬間だ。協業を決めた理由について池添氏は、「若いおふたりの強い思いに、応えたかった」と語る。
それからすぐに3者での食器開発が動き出した。これまでに丹治・大谷両氏が温めてきた食器のアイディアを、サカエ工業の開発担当者がさらに磨き、形にする。試作は3Dプリントを活用。何度も何度もやりとりが続いた。特にこだわりが強かったのは丹治氏だった。食材をスプーンなどで取りやすくするため、主菜皿の壁面を立たせたり、介助する人が、どの角度でも皿を持ちやすいように、皿の縁を工夫したり、盛り付けに向きを問わない形状にしたり…。食べる人が使いやすい構造はもちろんのこと、介助者や調理者などお皿に関わる全ての人が使いやすい形状を追求した。少しでも病院食器のイメージから離れるために数ミリ単位で縁の山・谷のデザインも求めた。池添氏は「プラスチック製造では、面を平らにすることを求められる中、縁のデザインなど、プラスチックでできるぎりぎりまで追求し、製品化につなげた」と話す。

丹治・大谷両氏とサカエ工業の3者の力を結集した食器であるZENは2025年10月、完成した。製造・販売はコモスが手掛ける。商品名であるZENには2つの意味を込めた。1つは、整った食事を意味する「膳」。もう1つは、純粋に食そのものに向き合うことを意味する「禅」。大谷氏は「医療や介護現場にふさわしい機能性と心を豊かにする美しさを両立した食器です」と自信を見せる。
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