調剤薬局・再編時代 上
飽和した市場が黒字薬局のM&Aを生んだ
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特徴としては、
(1)業界大手同士のM&A
(2)一緒になった後も看板はそのままで、約15年間かけてようやく看板を変えた
(3)「傘下に入る」という形ではなく、「ひとつのグループになって一緒に経営していく」という意味合いが強い
という3点が挙げられます。 当時、アインファーマシーズは100店舗程度の規模でした。ところが、今のアインファーマシーズは1年間で100店舗以上をM&Aで拡大しているのです。
それだけ調剤薬局業界の上位企業のM&Aは急加速しているわけです。ちなみに現在、アインファーマシーズが抱える店舗数は881店舗(今年4月末)。日本調剤やクオール、総合メディカルは500店舗を超えてきています。
■M&Aの理由 その1―規模の経済 ―そこまでM&Aの件数が増加すると、調剤薬局の業界構造自体が変化しているのではないでしょうか。 そうですね。ほんの10年ほど前には、どの薬局の規模もそれほど変わらなかった業界も、ここ数年で大きく様変わりしました。具体的には10社ほどの「上場企業」、年間売り上げが20億―100億円ほどの「地域NO.1薬局」、年間売り上げが5億―20億円程度で地域に根差した「地域薬局」、1店舗の家族経営の「パパママストア」といった区分が生まれつつあります。 ―調剤薬局がM&Aに乗り出す理由はどこにあるのでしょうか 。 もともと調剤薬局は、「1人の薬剤師が、地元の町で1つの薬局を守る」というスタイルが圧倒的に多い業界です。ただ、このスタイルでは、調剤も事務も事業所運営も、すべてを少人数でこなさなければなりません。つまり人手も資本も限られますから、薬価改定などの外的要因に応じて経営を効率化するのは、なかなか難しいのです。また、地域医療に貢献しようとしても、薬剤師の教育や在宅医療などには手を回す時間がなく、質の高い医療の提供が現実的になかなかできないといった悩みを抱えている調剤薬局のオーナーが非常に多いです。 一方、一定以上の事業規模があれば、「規模の経済」が機能し、経営も効率化させやすくなります。 また、複数の薬局を抱えていれば、どこかの薬局が災害で被災しても、別の薬局から「ヒト・モノ・カネ」の支援を受け、素早く運営を再開することができます。薬剤師が急に退職した場合でも社内で人をやりくりし、運営を継続できるでしょう。つまり、一定の規模があれば万一の事態にも対応しやすいわけです。仕事を代わってしてくれる同僚がいれば長期休みを取りやすくなりますから、社員への福利厚生も、規模が大きい組織であるほど充実させやすくなるといえます。さらに、大手調剤グループには研修施設もあり、教育プログラムがきちんと整えられていますから、「質の高い医療」を提供したいといった調剤薬局オーナーの希望をかなえることができるのです。 ■M&A の理由 その2―薬剤師不足・後継者不足 ―なるほど。ただ、調剤薬局にも「規模の経済」が働くということは、10年以上前から分かっていたことと思います。ここ数年の調剤薬局業界におけるM&Aの急速な増加には、もっと別の要因もあるように思えますが。 その通りです。M&Aの急増の背景には、売り手側と買い手側、それぞれの事情があります。 まず売り手側としては、特に規模の小さな薬局では、薬剤師を確保するのがより難しくなってきたことが挙げられるでしょう。薬学部に6年制が導入されて以降、その傾向が顕著になってきたようです。薬学生の間で「医者と同じ6年間学んだのに、小さな町の薬局に就職するのは…」「少なくとも何十店舗は運営しているような企業に入社したい」といった、ブランド志向が強まっているのです。 その結果、薬剤師確保に悩む高齢の薬局事業者が増えているのです。 後継者不在問題も深刻です。これは他業種でもいえることですが、少子高齢化の進行により、「継がせる子どもがいない」というケースは年々増え続けているのです。 ―人材が確保できないなら薬局を閉鎖すればいいとも思えるのですが。 他の業種ではそうなるかもしれませんが、薬局ではそういう話をあまり聞きません。むしろ、「地域のことを思うと、閉鎖はできない」「業務の連携先である医師は、70歳になっても80歳になっても頑張っている。うちが閉鎖するわけにはいかない」といった声ばかりが聞こえてきます。そこで薬局を存続させるために、第三者に薬局を譲渡するM&Aが行われるのです。 ■M&Aの理由 その3―社会保障費削減と飽和市場 ―なるほど。買い手側としてはどのような事情があるのですか。
まず挙げられるのは、社会保障費削減の流れです。薬価をはじめとした診療報酬については、前々回の改定から削減の方向性が明確になりました=グラフ=。そして、この流れは今後も変わることはなさそうです。
そんな中にあっても、特に上場企業は常に成長が求められます。診療報酬の単価が下がる以上、取るべき成長戦略は1つ。新規出店を増やし、顧客をより多く集め、売り上げを伸ばすことです。ただし、新しい薬局をどんどん創設していくという戦略は、極めて取りにくいのが現実です。 ―なぜでしょうか。 日本の調剤薬局は、もはや飽和状態にあるからです。日本国内で一般市民を対象とした業態の場合、どんな業種であっても、店の数はだいたい6万カ所で頭打ちとなります。実際、運送会社もコンビニエンスストアも歯科医であっても、事業所数はそのくらいの数で落ち着いています。そして調剤薬局の事業所数は、ここ1、2年で5万7000カ所余りに達しました。 この状況にあって、それでも上場企業が成長を遂げようとすれば、同業他社とのM&Aが最も手っ取り早い。少なくとも、かつてのガソリンスタンド業界のように競合激化を覚悟の上で割に合わない出店を続け、ライバルも自社も共倒れになってしまうより、友好的なM&Aによって成長を目指す方が、よほど建設的で現実的です。 実際、上場企業や中堅企業の経営層の多くはそのように判断しているようです。最近、まとまった規模の薬局同士の連携が増えているのは、その傍証といえるでしょう。 ―具体的にはどのような事例がありますか。 例えば、四国ではトップクラスの規模を誇った西日本ファーマシーや、静岡県では屈指の規模だったメディオ薬局は、アインファーマシーズに譲渡されました。九州北部を中心に調剤薬局を展開するトータル・メディカルサービスは、札幌市に本社があるメディカルシステムネットワークのグループの一員となりました。つい最近でも、兵庫県に拠点がある阪神調剤薬局が静岡県のレーベンプランを譲り受けました。 今、売却された具体例として挙げた薬局は、経営上の問題を抱えていたわけではありません。いずれも年間億単位の利益を出す、ごく健全な企業ばかりです。それでも地域医療にどう貢献できるかという観点から、より良い医療を提供するためには大手グループとしてやっていくことがベストだと判断して譲渡したのです。 ―譲渡された企業はどういった将来の戦略を考えていますか。 例えばレーベンプランは阪神調剤薬局に買われたわけですが、そのレーベンプランは今後、静岡県内で買い手側として薬局のM&Aを進めることを検討しています。レーベンプランとしては阪神調剤薬局のグループに入り株主が変わったことで、資金力が付いたのです。 つまり、譲渡する側もM&Aを譲渡先との連携と位置付け、将来の発展を考えて提携する相手を選んでいるわけです。 ―御社のM&A支援件数も相当伸びているのではないでしょうか。 4年前には当社の調剤薬局M&A支援件数が年間10件程度だったのが、2年前には24件になりました。そして昨年は44件です。件数だけでなく、1つ1つのM&Aの規模もどんどん拡大しています。それこそ、1件で何十億円という譲渡対価になることもあります。
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