譲渡側と譲受側の関係性、約半数が「敵対的になる」
薬局のM&Aで友好的な関係を築くには?(上)
「M&A」に関する薬剤師の認知度は高い―。
CBnewsが薬剤師に、「M&A」について聞いたところ、95%が「知っている」と回答した。また、約半数の人が、譲渡側と譲受側は敵対的な関係になる場合が多いとのイメージを抱いていた。
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CBnewsでは、7月17日から9月13日にかけて読者の薬剤師を対象にインターネット上でアンケートを実施し、109人から回答を得た。
M&Aに対するイメージを尋ねたところ、全体では「友好的」(51.4%)と「敵対的」(48.6%)と回答した人が約半数ずつだった。役職別に見ると、経営者の約8割が「友好的」と回答したのに対し、従業員の約6割は「敵対的」なイメージを抱いていた。
譲渡する場合に不安に感じることを複数回答で聞いたところ、「給与など待遇面の変化」を挙げた人(75.2%)が最も多く、次いで「仕事内容の変化」(59.6%)、「経営方針の変化」(56.9%)などの順だった。経営者では「評価制度の変化」を挙げた人が多く、従業員では「日常的な業務ルールの変化」が多かった。
■主な譲渡理由は「後継者不在」「人材確保ができない」
「お互いのやり方を融合させて、いい部分を取り入れていきましょう」と譲り受ける前に従業員に伝えています。株式会社アピスファーマシー(大阪市)は、薬局の経営支援で付き合いのあった株式会社CBパートナーズが提供するM&Aサービスを活用して、複数の薬局の譲り受けを経験している。アピスファーマシーの川越敏章代表取締役社長兼CEOは、M&Aを行った当時を振り返りながら、そう話す。
同社グループは、調剤薬局事業や医薬品の卸売業、自社ブランド商品の開発・販売、福祉サービス事業などを手掛ける。調剤薬局事業では、中核のアピスファーマシーのほか、関連会社であるテトラメディカルサプライ(東京都中央区)や小川薬局(東京都北区)、タカダ薬局(大阪府高槻市)、MYアピスファーマシー(名古屋市)などの計約80店舗を運営している。
―本日はお越しいただき、ありがとうございます。早速ですが、これまでのM&A案件についてお聞かせください。
関連会社の薬局はいずれも譲り受けによるもので、その店舗数は計20店舗余り。このうち、店舗数が最も多いのはテトラメディカルサプライの6店舗です。
「後継者不在」と「人材確保ができないこと」が理由で、M&Aという言葉が一般的に広まる前から、当社には「後継者がいないので店を譲り受けてほしい」との相談がありました。「経営不振」が理由で、譲り渡したいという案件はありませんでしたね。
■本体の店舗と競合する譲り受けはしない
―株式の譲り受けに当たって、重視していることは何ですか。
同社グループが出店していないエリアで、株式を譲っていただける相談があれば検討しています。未出店の地域でゼロから出店するよりも進出しやすいからです。
また、同社グループの店舗と競合するような、近隣の薬局を譲り受けることもないですね。地域は同じでも、最寄り駅や路線が違う所であれば、譲り受けるようにしているため、「敵対的な買収」を行ったケースはないと思います。
―株式を譲り受けた後、その薬局店舗の経営方針などは変わりましたか。
薬局には、それぞれの経営スタイルやオペレーションがあると思っています。譲渡元の薬局の経営スタイルには意味があって現在の形になったはずですから、株式を譲り受けても、従来の経営スタイルなどはすぐには変えないようにしています。
私たちはまず、譲り受けた薬局の経営方針などを学ぼうと思っています。少なくとも譲渡後の1年間は、基本的に従来のやり方で店舗運営をします。その後、必要に応じてアピスファーマシーの経営スタイルに合わせていくこともありますが、従来通りの運営を続けるケースもあります。
譲受する際には、事前に譲渡側の全従業員に集まってもらい、「経営方針などは当面、何も変えません」「お互いのやり方を融合させて、いい部分を取り入れていきましょう」と必ず伝えています。その後、個人面談も行い、一つ一つの不安や心配事などに回答し、従業員とコミュニケーションを取るように心掛けています。
―アンケートで、譲渡側が不安に思うことで最も多かった回答は、「給与など待遇面の変化」でした。給与面について、どのように対応していますか。
関連会社の薬局はそれぞれ、譲渡前の給与制度を適用しています。例えば、譲渡前に年俸制を採用していたり、定期昇給制度を導入していたりした場合には継続しています。手当なども同じですので、従業員の給与などは譲渡前と基本的に変わりませんね。
M&A後に新しく入社した方に関しては、アピスファーマシーの給与制度を適用していますよ。
■調剤業務のやり方は基本的にどこも変わらない
―従業員の労働時間や有休取得への対応は。
個人経営で休暇がほとんど取れていなかった元オーナーには、例えばパートに勤務替えしてもらうなど、譲渡前より労働条件は改善できていると思っています。元オーナーから「心身の負担が減り安堵している」と感謝の声をいただくこともありましたね。
―アンケートでは、「仕事内容の変化」に不安を感じている人が約6割いました。
薬剤師の業務に関していえば、調剤のプロセスなどはどこの薬局でも似ているのではないかと思います。もちろん、物販業務や薬の在庫管理など店舗の規模によって業務量の差はありますが、主な業務である調剤のやり方は基本的に同じなので、不安に感じることはないと思いますよ。
チェーン薬局では、日々の売り上げや在庫管理、定期的な棚卸しの報告などをしますので、このような業務は、個人経営で行っていなかった方には多少大変なことがあるかもしれません。
■経営方針の変化、薬局業界ではM&Aに関係なく必要
―アンケートの結果で、気になった回答などはありますか。
譲渡する場合に不安に感じることとして、6割弱の人が「経営方針の変化」を挙げていますが、薬局業界には薬価改定という大きな変革期が2年ごとにありますよね。場合によっては、これに合わせて事業者が経営方針を変えることもあるでしょう。経営方針の変化を避けていては、薬局は生き残っていけませんからね。われわれの業界ではM&Aに関係なく、経営方針の定期的な見直しが求められており、意識・行動を変えて生き残った所が、未来を開いていくのではないでしょうか。
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