「医療の確かなやりがいを」地域の生命線を支える要に
地域唯一の病院、南会津病院で働く魅力
福島県は、東北新幹線で東京から最短1時間半程度の立地にある。北海道、岩手県に次いで全国3位の広大な面積を有し、色鮮やかな五色沼や東洋一とも言われる種類と数の鍾乳石が続くあぶくま洞など、雄大な自然に恵まれた豊かな環境にある。
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南会津病院外観
この福島県の南西部に位置し、下郷町、南会津町、只見町、檜枝岐村の4町村からなる南会津地方は、全面積のうち9割が森林という農村地帯だ。南会津地域保健医療圏で唯一の病院で、地域医療の中核的な役割を担う県立南会津病院の佐竹賢仰病院長は、南会津を愛してやまない地元のファンだ。
南会津病院・佐竹賢仰病院長
南会津町田島では、伝統の田島祇園祭が地域住民の絆を深め、「力を合わせて祭りを作り上げる醍醐味にはまった」そうだ。「けがれなき美しい水の起点」とも呼ばれる酒造りに向いた土地柄で、南会津の酒造4蔵の酒は「どれも甲乙つけ難く、日本で一番おいしい酒」だと佐竹病院長は笑う。愛すべき地で医療を行う魅力について、佐竹病院長に話を伺った。
■福島県立医科大と共に医師のキャリア構築を
まず、福島県全体について見てみよう。南北に連なる阿武隈高地と奥羽山脈により、大きく3つの地域に分かれ、二次医療圏は6区分されている=図1=。
図1 福島県二次医療圏
県下の医療は、福島県立医科大(福島市)を中心に都市部に集中している。 2018年度の人口10万人当たりの医療施設従事医師数は、全国平均246.7人に対し、福島県は204.9人と全国41位。「医師偏在指標」で見ると、全国値239.8に対し、福島は179.5と43位で、地域医療において絶対数が不足している状況にある。
福島県では、このへき地医療支援の一つとして、福島県立医科大に、地域医療等を支援する「支援教員」の枠を設け、「医師が不足している医療機関」への診療応援等の仕組みを大学と協力して運用している。
さらに、東日本大震災の影響からも、県下の医療提供体制、医師確保の再構築が進んでいる。医師確保を総合的に担う「地域医療支援センター」を、11年に県立医科大学内に開設した。同センターでは、県内の医師の勤務状況や地域における必要な医師数等に関する情報収集を行い、県立医科大からの医師の派遣調整や「ドクターバンクふくしま」=図2=による就業あっせんのほか、修学資金貸与をはじめとした医師全体のキャリア形成を新たに構築することで、確保・定着に取り組んでいる。
この「ドクターバンクふくしま」は、医療機関の医師求人情報を無料で福島県ホームページに掲載し、医師から求職希望があった場合に雇用のあっせんを行う事業で、これまでに延べ23人の医師が県内の医療機関で就業した。
図2 「ドクターバンクふくしま」イメージ
県の担当者によると、産科・小児科・麻酔科の特定診療科に従事する場合、県内の研修医や、県外医師を対象に研究資金を貸与する制度を運用している。県外の医師が、県内医療機関に興味を持ち、見学に来る際の交通費等を県が負担する制度や、医療機関に対しては、女性医師の再就職を支援するための復帰研修費用、勤務環境改善経費を補助する事業も行っている。
■「会津・南会津二次医療圏」における南会津郡の地域医療の現状は
さて、医師不足が最も懸念されている「会津・南会津」の二次医療圏は、20年度からスタートした医師確保計画において、現時点の「標準化医師数」486人に対し、546人の確保を目指している。
南会津病院が所在する南会津郡は、福島県の南西部に位置し、20年7月1日時点の人口数は約2万5,000人だが、神奈川県の広さに匹敵する広大な面積をもつ。
広大な農村地帯で唯一となる南会津病院
南会津病院は、平均在院日数が短く在宅死亡率は高い傾向にあり、在宅と病院の連携に重きが置かれる。
佐竹病院長の現場目線からは、地域内で受診可能な診療科目も限られており、高齢化が進行する地域で特に必要とされる、整形外科・眼科・精神科の常勤医がいないため「地域住民が大変困っている」と感じている。「なんとか常勤医を確保できないか」との思いは強い。
この地には、南会津町商工会の皆さんが中心となり設立された「病院友の会」という組織があり、「病院の職員と友の会会員で定期的に交流を図る機会を設けている」という。南会津病院では訪問診療から1次医療、また地域唯一の病院として2次救急医療まで、幅の広い医療を担っているが、より地域住民と密着した形で行えるところに、南会津病院でキャリアを積む魅力があると感じている。
「南会津は、人がきちんと応えてくれるというところが、仕事をする上でのやりがいにつながります。真摯に物事に取り組んでいれば、周りの人がきちんとそれを見て、正当に評価してくれますし、何か困ったことがあった際には、いつでも力になってもらえる」と、佐竹病院長は話す。
地域の生命線を守る病院として心に残るエピソードを聞くと、「20年くらい前の話です。春先まだ寒い頃に、4歳くらいの女の子が用水路の中で発見され、心肺停止状態で病院に搬送されました。関係者の話から、長時間溺れていたようです。院内にいたほとんどの医師が集まり、懸命に蘇生を図ること1時間、心拍・呼吸が再開しました。すぐに高次病院に転送となりましたが、その後1週間ほどで何事もなかったかのように元気に退院して、みんなでとても喜んだことを覚えています」。
地域唯一の病院として、救急医療にも力を入れており、南会津郡を管轄する南会津地方広域消防本部とは合同で勉強会を開催し、救急隊員が病院で研修を行うなど連携強化にも努めている。会津若松の高次病院の患者受け入れもスムーズで、会津全域で「正当な事由なく断らない救急医療を目指しています」と佐竹病院長。地域の住民と共に支え合い、「命を救っている」という実感が得られる場であることは確かだろう。
・福島県医師確保計画について
・福島県地域医療支援センターについて
・福島県立南会津病院について
・「ドクターバンクふくしま」福島県医師求人情報について
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