給与に頼らない中途採用のポイントは?
非金銭的報酬を分析し、求職者に響くアプローチへ
■薬剤師の中途採用に苦戦する薬局経営者からの相談事例
今回ご紹介するのは、薬剤師の中途採用に関するお悩みへの対応です。調剤薬局を近隣エリアで4店舗経営するK社長から、「複数の人材紹介会社に登録しているけれど、ほとんど応募が来なくて。給与は既存社員との兼ね合いで大幅に上げることもできないし、どうしたものだろう。調剤経験があれば採用したいのだが」とのご相談がありました。
K社長は最近、近隣の給与相場をコンサルタントに確認し、その水準に合わせて給与条件を変えたそうですが、それでも応募は一向に来ないご様子で、「ほかに有効な採用手法がないだろうか」と話します。
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確かに、採用に困ったときには給与の設定に意識が向きがちです。しかし、高い給与に惹かれて入社する薬剤師は、さらに高条件の会社があれば、すぐに退職してしまうケースが多いものです。そういった負のスパイラルに陥らないためにも、「定石」をしっかりと踏まえた上で採用活動を進めていきましょう。
■「報酬」を分解し、明確にすることが大切
中途採用において重要なことは、「応募者にとって今の勤務先や他の薬局よりも自社が魅力的に映るかどうか」です。そうでなければ、入職という意思には至りません。自らの薬局が持つ魅力を明確化するには、自らの薬局が従業員に支払う「報酬」について分解して考えることが定石です。経営者の多くは「報酬≒金銭的報酬」と捉えがちですが、報酬にはさまざまな形があるのです。採用がうまくいっていたり、従業員満足度が高かったりする組織は、「非金銭的報酬」をうまく使っている企業が多いです。
【報酬の分解イメージ】
当社でもこの非金銭的報酬を意識して組織のモチベーション向上に活用していますが、医療介護業界においてはさらに効果的だと感じます。薬局経営では店舗をイメージしてもらえば分かりやすいと思います。女性の割合が高く、かつ狭いコミュニティの中で仕事をしなければならない環境において、どのような非金銭的報酬が求められているでしょうか。
また、先の図や表で非金銭的報酬として紹介した要素を全て網羅して求職者(スタッフ)に提供する必要はありません。「給与は高くないけれど、働く社員や企業風土が魅力的」「忙しいが、意識の高い仲間と成長が実感できる」という職場への評価はよく耳にしますよね。組織にはそれぞれの個性や独自の強みがあるはずです。大切なことは、この非金銭的報酬として求職者にアピールできる自社の組織の魅力は何かを明確にすることです。
■自社の「魅力」を活かした採用の成功事例
ここで、中途採用に成功しているA薬局の事例を紹介します。
A薬局では、自社(店舗)で提供できる非金銭的報酬を考えた結果、ほかの薬局よりも「成長と仕事のやりがい」をアピールできるという結論に達しました。そこで、採用活動では自社(店舗)の魅力として打ち出すポイントを「自己成長」と「仕事のやりがい」に絞り、それに共感する人材をターゲットに設定しました。採用戦略の変更で応募者は以前よりも減りました。しかし、薬剤師や医療者としての成長が見込めること、これからの時代の薬剤師が目指す姿であることへの期待などから内定受諾率は上がり、さらに自社の価値観に合った薬剤師が増えたことで全体の採用レベルも上がったそうです。
スタッフの成長を促し、仕事のやりがいにつながる取り組みとしてA薬局では、「褒め合う」仕組みを導入しています。これはスタッフ同士がサンクスカードを使って、感謝を伝え合う制度です。この制度のポイントは、褒められる側だけでなく、褒める側(良い点を見つける能力)も高く評価される仕組み、ということです。良い点に感謝ができる組織になったことで、全体的なコミュニケーションが改善されたという好事例です。こうした文化も、「非金銭的報酬」としてアピールすることができるでしょう。
■「報酬」を整理して採用戦略に活用するステップ
K社長のご相談に話を戻しましょう。K社長はこれ以上の給与UPは厳しいとお考えです。そのため、「金銭的報酬(給与、福利厚生)」のアピールだけでは、採用の差別化は難しそうです。
そこで、自社(店舗)で提供できる非金銭的報酬を分解し、自社の魅力としてどう打ち出していくかを決定していく必要があります。自社(店舗)ならではの非金銭的報酬を見つけ、打ち出していくためには、社内の魅力を客観的・網羅的に把握すると同時に、他社の魅力の打ち出し方を知る必要があります。順番に考えてみましょう。
≫社内の魅力の把握
社長が一人で考えても自社の魅力は見つけづらいものです。できることなら、今働いている社員の方々に聞いてみるのも良いでしょう。実際に働いている社員だからこそ出てくるリアルな意見もありますし、社長が気付いていない魅力が見つかるかもしれません。自分で特定するのは難しい、と思われる経営者様は当社にご相談ください。「人事支援部」という部署がありますので、そのノウハウを提供し、サポートさせていただきます。
- ≫他社の魅力の把握
こちらも漠然と調べるのではなく、他社がどのような要素を魅力として打ち出しているのかを整理すると比較しやすいでしょう。他社が何を魅力として打ち出しているかを把握できれば、相対的に自社で打ち出すべき魅力が定まってきます。
- ≫両者の比較から打ち出し方を決める
最後は、両者を比べ、自社が少しでも魅力的に映りそうな要素に絞ってアピールポイントを決めていきます。あくまでも優先すべきは、自社がアピールしたい魅力ではなく、「応募者にとって今の勤務先や他の薬局よりも魅力的であるかどうか」を意識していきます。
全ての応募者を惹きつけ、採用することはできません。自社に合う中途薬剤師を採用するには、このような進め方もあります。
■今回のまとめ
薬剤師採用における「求人情報上のアピール」というと、どうしても給与や賞与、休日などに目が向けられがちです。しかし、当然ではありますが、それらに惹きつけられるのは職場に対してこうした条件を重要視する人材だけです。
本記事では非金銭的報酬の活用についてご紹介しました。この考え方は、採用だけでなく定着率や生産性の向上などとも直結しています。また今後の評価制度や報酬制度のメインになってくる考え方だと考えます。ぜひ組織の魅力の分解をしてみてください。
(文:株式会社CBコンサルティング 代表取締役 藤本進)
筆者プロフィール
藤本進(ふじもと・すすむ)
1979年東京生まれ。中央大学商学部経営学科卒業後、ベンチャー企業(通信OA機器販売会社)を経て、2007年に株式会社キャリアブレインに入社。東日本統括マネージャー、経営企画部で営業部門の教育担当を歴任。16年には、厚生労働省委託事業「介護分野における人材確保のための雇用管理推進事業」(中・四国ブロック)を受託。事務局長として、中・四国ブロックの人材定着のための調査・普及活動を行う。17年に株式会社CBコンサルティング代表取締役就任。18年に株式会社CBナレッジ代表取締役に就任した後、現職。
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