DXで災害にもサイバー攻撃にも対応するBCPを
変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~vol.3
ネットワークインフラとITサービスを手掛ける「アライドテレシス」(東京都品川区)が提供する、医療現場で変革の旗手を担うキーパーソンと考える特別企画「変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~」。vol.3は、2024年の能登半島地震に見舞われた石川県七尾市にある薫仙会本部・恵寿総合病院理事長の神野正博氏、16年の熊本地震を経験した熊本大学病院・医療技術部・診療放射線技術部門・副診療放射線技師長の池田龍二氏と、災害やサイバー攻撃などに対応する事業継続計画(BCP)について考えました。
【関連記事】
木村氏 災害時に必要な対応として、様々なことがあると思いますが、最低限おさえておくべきこととしてはどのような要素が考えられますか。神野氏 災害向けに特別なものというよりは、普段からの仕事のやり方や仕組みを変える取り組みが、結果として災害時にも役立ちます。ただ、最低限といえば、やはり電源です。また、能登半島地震では、半島北部で固定電話や携帯電話の基地局が機能しませんでしたが、当法人では光ファイバーが使用できました。いろいろなインフラを整備することが必要です。
池田氏 いかにデジタルを機能させたまま、病院機能を継続させるかが重要だと思います。DXと言いますが、私は最近の流れも踏まえて働き方改革も含めた「ワークトランスフォーメーション(WX)」と言えるのではないかと考えます。「WXあってのDX」であり、「DXあってのWX」と、両者には相関が大きいです。また、キーとなるポイントとして、データバックアップが重要です。データが無くなれば業務を継続できません。データロスを少なくするためにいかにDXを活用するかが重要です。そしてもしデータが使えない場合、どのくらいで復旧するかという点にも注目します。画像データはテラバイト単位の大きな量になりますので、クラウドも選択肢にあがりますが、現状ではコスト面がネックになります。ハイブリッドで組めるようなサービス提供など、時代の変化も含めて今後いかにDXで構築していくかが、ポイントになってくると思います。
神野氏 電子カルテなどテキストデータと、放射線部門で使われる画像データでは、情報量に大きな差がありますよね。例えば、すぐに引き出す必要のある1年以内のデータはクラウド、それ以外はオンプレミスでといった使い分けも考えられます。ユーザー側が求めるサービスにしていくという点では、製品やベンダーごとにユーザー会を組織し、そこでの意見を集約して製品などに反映していく形に持っていった経験もあります。そういった意味でアライドテレシスさんがユーザー会を組織されているのはとても大きいと思います。木村氏 当社のユーザーコミュニティー「医療ユーザー会」では、情報システムやDXなど幅広いテーマで、情報交換会を開催しています。普段共有しにくい各システムの問題点の改善案や今後医療をどう効率化していくかといった前向きな意見がよく出ており、当社としても大変参考になっています。また、時代とともに変わったという点は我々も感じており、11年の東日本大震災の時から、システムのバックアップや保全に関する重要性がかなり指摘されていました。最近ではそこにサイバー攻撃なども絡んできており、災害などと分けて考えるのではなく、併せて考えることが大事だと思います。
川野氏 セキュリティー対策についてどこまでするべきかは病院によって変わりますが、現状把握から始めて、その中でここが弱いから対策しましょう、とお話しさせていただく形が多いです。また、病院においてセキュリティー同様に優先度が低くなってしまうところとしてネットワークの管理が挙げられます。ネットワーク専門ベンダーとして、医療機関の皆様が簡単に管理できる仕組みのご提案を積極的にしていきたいと考えています。
神野氏 大きな問題として、そもそも多くの病院にIT人材はいません。対応としては、外部のプロと組むか、もしくはリスキリングなどを通じて内部でIT人材を育成するかしかないのです。内部の医療職で育成すれば医療現場を知っているので強みになりますし、さらに外部の人材ともうまく組めればメリットはより大きくなります。
川野氏 “想定外”をなくすためには普段からセキュリティー、特に脆弱性について気を使っておく必要があると思いますが、「これは想定外だった」ということはありましたか。
神野氏 セキュリティー関連ではありませんが、当院では津波警報が出た際に、周辺住民が逃げ込める協定を地元自治体と締結していました。食料なども備蓄しており、能登半島地震の際は300人近くが避難してきたのです。想定外だったのは、ペットも一緒の方が多かったことです。急遽、病院内にコーナーを作り対応しました。池田氏 熊本地震では、職員が集まることが本当にできませんでした。放射線部門内においては、発災後早めに参集し、中心になって動かしてくれたのは近くに住む20代のスタッフで、主任以上については家族の安全確保の問題もあり、なかなか参集できませんでした。限られた人材で、誰が現場を回していくかというのは悩ましい問題でした。また、家族同伴で来てくれた職員もいましたが、病院の方で家族も含めたスタッフ用の休憩スペースを確保するといった配慮や、休講だった熊本大学の医学生が、子どもたちの相手をしてくれたことはとても助かりました。
木村氏 限られた人材の中で、リーダー的行動ができる人物がいない場合は、どうすればいいのでしょうか。
神野氏 いなくても、問題が起こったその時のために、担当ごとにリーダーを決めておくのです。そして他の人には、その分野については口出しをさせないことをルールにする。有事にはそのくらいの覚悟が必要となります。訓練はしていましたが、実際の地震時には訓練時の想定をはるかに超えていた。リーダーを決め、分担する重要性を痛感しました。あとは特に仕事量は被災しながらも災害医療対応で大きくなります。この地震時の対応は、皆さんにぜひとも伝えておきたいです。
池田氏 熊本では震災前は地震よりも水害への訓練をよく行っていました。最近では台風による被害も年々増加しています。当院でも外来診療を止めたこともありますし、公共交通機関の計画運休や物流の停止も珍しくなくなりました。熊本県内の医療機関は医薬品物流を飛行機に頼るところもあり、影響が大きいです。サイバー攻撃も含めて、あらゆる被害想定をした「オールハザードBCP」の重要性を痛感しています。
神野氏 「オールハザードBCP」に向けては、DXは本当に重要です。とりわけデジタルダッシュボードなどによる情報の「見える化」は、視覚を通じて伝わりやすく、いかに見える化するかが大事です。情報共有という点では職員に配布しているスマートフォンや通信アプリも役立ちます。新型コロナ対応で、当院では情報の一元管理により注力しました。職員に一斉に伝えられますし、結果として、それが地震の際にも役立ちました。
池田氏 リアルタイムでの可視化は、いざという時に役立ちます。先述したようにタイムパフォーマンスを上げるため、WXへDXの活用を考えていますが、人手不足が進む中でも、ダブルチェックのような慎重な業務が求められるのは変わりません。そんな中だと、やはりITの力を借りるということになりますね。デジタル技術による可視化、AIの判断、そういったことが助けになっていきます。
木村氏 最近はオンライン勤務もあり、災害時の活用も十分に想定されます。一方、それを支えるITについてはサイバー攻撃などセキュリティーの問題が生じるようになってきました。最近は大企業のみならず、中小企業、そして病院も例外ではありません。データを利用不可にし、解除のために攻撃者が身代金を要求するランサムウェアという攻撃があります。身代金を払っても解除される保証は一切なく、逆に支払い実績が共有され、再度攻撃を受けるなどという話も各方面から伺います。川野氏 不正アクセスは、通信相手を識別するIPアドレスがファイアウオールのログに残ります。国外のIPアドレスが多いため、情報アクセス元の国を制限する機能を用いて、不正アクセス対策を実施し、当社でも提供しています。
池田氏 医療機器や医薬品のサプライチェーンは首都圏が中心で、地方の医療機関はサプライヤーとオンラインによってリモートメンテナンスが増えています。セキュリティーには気を使いますね。災害時には病院に人が多く来るので、入口をひとつにして対応することを基本としています。ITでも同様に、バックドアを制限することは大事です。
神野氏 私は過疎地の未来像は、日本の未来像だと考えています。能登半島は高齢化や人口減の進む過疎地ですが、日本全体でこれらの問題は進行しています。医療についても先の先を読んだ対応が今後必要と考えていますが、皆さんどうでしょうか。
木村氏 医療についても、今後はクラウドが基本となっていくことは想像できます。AIも活用は進むでしょう。
池田氏 画像診断領域の世界でいうと、まだまだ選択できるクラウドサービスが少ないです。オンプレミスはありますが、クラウドも活用したデータ管理・運用が理想です。
▽本座談会のもととなったセミナーをアーカイブ配信中。
下記アライドテレシスHPよりお申込みのうえ、ご視聴いただけます。
▽アライドテレシスの医療機関向けソリューションについてはこちら
▽【前回vol.2の記事はこちら】
変革する医療現場を支えるDXのチカラ
不足する情報部門の人材、アウトソーシングも視野に
https://www.cbnews.jp/news/entry/20240911115838
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】