CBnewsでは、医療経営の厳しい現状や国への要望を病院のトップから募り、緊急寄稿「病院危機」として配信している。第5弾は、千葉大医学部附属病院の大鳥精司院⻑。(随時配信)
【千葉大医学部附属病院 大鳥精司院⻑】
さまざまなメディアが病院経営の危機的状況を報道している。これはコロナ禍での医療崩壊危機に匹敵する緊急事態であり、ほとんどの病院が赤字経営に転じている。
全ての国立大学病院42施設では、コロナ禍以降の赤字額は、2023年度に総額60億円、24年度は285億円と一気に増加している。
一方で、収益は対前年度比547億円の増である。問題は収益と費用のバランスが崩れたことで、費用に関しては人件費が303億円、診療経費が436億円増え、費用の合計は対前年度772億円も増加した。すでに自助努力では如何ともしがたい状況に置かれている。
大学病院は高度医療を維持しており、地域の最後の砦的な存在である。そのため高額の医療材料や薬剤を使用する症例が多い。ほかの医療機関の医療比率は平均20%台であるが、国立大学病院の医療比率は43%であり、約2倍である。しかも、ここ10年間で医療材料費は1.7倍、医薬品費は2.0倍に跳ね上がっている。特筆すべきは、医療材料のうち保険償還されない非償還材料が、国立大学病院では24年度は1,010億円であり、全額が病院の持ち出しとなっていることである。
また、臓器移植の大半は大学病院で行われているが、症例別原価計算の結果、1症例平均289万円の赤字、特に術後管理が難しい肺移植では419万円の赤字となる。臓器移植に限らず、合併症を持つ患者の治療を行う大学病院は、多くの経費が病院持ち出しになっているのが現状である。
千葉大医学部附属病院でも同様な苦境にある。老朽に伴う外来棟、中央診療棟の建築や新規医療機器導入の借入金の返済がピークに差し掛かり、さらにシステムリプレイスによる経費を計上すると、総収入の10%を借入金返済に充てなければならない。
働き方改革による勤怠管理の徹底で超過勤務の費用も大幅に増加している。人事院勧告対応としての賃上げなども含めると、今の診療報酬体系のままでは破綻するのは明白である。これは決して自助努力を怠っているわけではない。現在進めている主な取り組みを記載する。
【1】年間の病床稼働率を90%に維持する。効率的な各診療科の病床配置を目指して定期的に見直し、救急患者の積極的な受け入れを行っている。
【2】超過勤務の削減のため、医療従事者の意識改革、会議の削減、医師から看護師への指示出し時間の厳守などを推奨している。
【3】これらは若手多職種からなる「侍チーム」(正式名称:経営改革推進チーム)を結成し、病院長補佐として現場目線からの病院経営に関するプランを出してもらい、実行に移し、効果を挙げている。
【4】幅広い寄付の受け入れなど、新たな収入増対策を検討している。
ただ、このような試みとは裏腹に千葉大病院の職員も疲弊しており、1カ月以上のメンタル不調により休業した職員の割合は、毎年1.3-1.7%台で推移していたが、24年度は1.96%となり、過去5年間で最も高い値だった。全国の一般企業の割合は0.6%であり、その3倍以上と非常に高く、産業医の積極的な介入を行っているが、組織体制の崩壊が危惧される。
院内ではこれを受けて面談や心身のケア・サポートなどを十分に行っているが、病院長として職員の心身の健康も守っていかなければならないと痛感している。
我が国の医療の担い手である大学病院の立場から国への要望としては、適時の補正予算の編成や、次回診療報酬改定で高度医療提供体制や医師派遣機能を一層評価する仕組みの導入を提案していただきたい。医師だけではなく若い看護師や薬剤師の急性期医療機関から民間、調剤への転職は大きな問題であり、検証、対策も必要であろう。この問題は賃金格差も引き金になっており、医療・介護・障害福祉の処遇改善について、過去の報酬改定などでの取り組みの効果を把握・検証していただき、新たな仕組みを構築してほしい。
骨太方針2025にも「公定価格(医療・介護・保育・福祉等)の引上げ・働き手の賃上げ原資を確保できる価格転嫁の徹底を省庁横断的に推進する」とあり、ぜひ期待したいところである。
(残り0字 / 全1771字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】


