人手不足が深刻化する40年見据え、「未来の介護」に挑戦
SOMPOケア鷲見隆充代表取締役社長 介護経営のデザインVol.6 オピニオン
【SOMPOケア株式会社 鷲見隆充代表取締役社長(全国介護付きホーム協会代表理事)】
少子高齢化が進み、今後15年足らずで高齢化率が35%に達すると見込まれています。生産年齢人口は減少を続け、介護業界では、高齢化がピークを迎える2040年に約57万人の介護職員が不足すると推計されています。この課題に対応するため、当社では限られた人員でも質の高い介護を提供できる「未来の介護」の実現を進めています。
22年には、厚生労働省の実証事業として介護ロボットやICT機器の導入効果を検証。介護付き有料老人ホーム12施設が参加し、その成果は24年度介護報酬改定で人員配置基準を「3対1」から「3対0.9」へ柔軟化する特例の創設につながりました。
23-24年度には、全介護付き有料老人ホームで業務の可視化と標準化を進め、睡眠測定センサーや介護用シャワーなども導入。25-26年度は取り組みの対象を介護職以外にも広げており、職種横断で介護業務を担う体制を整え、生産性向上効果を従来の2倍にする計画です。取り組みを推進するなかで、全介護付き有料老人ホームの約5割に当たる148ホームで「3対0.9」の特例適用を申請しています。
在宅サービスも含めてこうした取り組みを進め、26年度の生産性向上効果は取り組み前に比べて約40億円に達する見込みです。創出した原資は職員の処遇改善に充て、人材確保につなげることで持続可能な介護経営の好循環を生み出しています。
今後は、AI活用をさらに加速させ、新たなオペレーションモデルを構築します。AI議事録は26年3月までに全1,100事業所への導入を完了し、1事業所当たり月10時間の業務時間削減を実現しました。26年度にはAIによるケアプラン作成支援もPoCを開始し、初回のケアプラン作成時間を約3時間短縮できる見込みです。
7月からは、転倒事故などを自動記録するAIカメラの実証も開始。事故発生時のみカメラが起動し、映像の記録から事故報告書の作成までを自動化することで、1施設当たり月7時間の業務削減を見込んでいます。
■「人間尊重」を軸に介護を変える
私が代表取締役に就任した22年4月から一貫して掲げているのが「人間尊重」です。利用者や職員はもちろん、地域で暮らす全ての人とのつながりを大切にすることが、介護事業の価値を高めると考えています。
その象徴が、介護付き有料老人ホームを中心に全国で毎月開催している「SOMPO流 子ども食堂」です。介護施設を多世代交流の拠点とし、地域共生を育む取り組みですが、積極的に実施する施設ほど業績も好調です。私は現場に入居を増やすよう指示したことは一度もありません。地域や利用者に価値を提供し続ければ、結果として経営はついてくると考えているからです。
「未来の介護」も同じ発想に立っています。生産性向上は人員削減を目的としたものではありません。人材不足が深刻化する時代に、介護の質を維持・向上するための改革です。現場職員には、その目的と必要性を丁寧に伝え、理解を得ながら進めることを何より大切にしてきました。
効率化によって生まれた時間や原資は、処遇改善や休暇を取得しやすい職場作りへ還元します。職員の働きがいを高めることが、介護の質と経営の双方を支える基盤になると考えています。
■介護業界全体の変革をけん引
私たちは、この取り組みを自社だけにとどめるつもりはありません。26年7月には「SOMPOケアソリューションズ」を設立し、「未来の介護」で培ったノウハウを業界全体へ展開します。「生産性向上推進体制加算I」の取得支援をはじめ、人材不足時代に対応する持続可能なオペレーションモデルをワンストップで提供し、28年度には売上高100億円を目指します。
物価高や賃上げなどの影響を受け、介護経営を取り巻く環境は一段と厳しさを増しています。しかし、基本報酬の引き上げを求めるだけでは、介護業界を志す人材の減少に歯止めをかけることはできません。介護事業者自身が変革を進め、生産性向上をさらに高めていくことが不可欠です。そのためには、事業所同士の協働や大規模化などを通じて経営基盤を強化し、限られた人材を最大限に生かす仕組み作りも欠かせません。
私は就任以来、全国の事業所を訪問し、現場職員との対話を重ねてきました。これまでに1,075事業所を訪れ、全1,100事業所の訪問完了まで残すところ25カ所となっています。オンラインも含め、約1万8,000人の職員と向き合い、現場の課題や思いに耳を傾けてきました。一人ひとりの声こそが、改革を前へ進める原動力だと実感しています。
これからも「人間尊重」を軸に品質を伴う生産性向上を追求し、処遇改善と働きがいの向上を両立させていきます。世界でも類を見ない超高齢社会を迎える日本で、誰もが地域で安心して暮らし続けられる介護を実現するとともに、介護業界全体の持続的な発展に貢献していきたいと考えています。【聞き手/構成・渕本稔】
【取材を終えて】
歯止めのかからない少子化の影響は、介護業界にも確実に及んでいる。SOMPOケアが進める「未来の介護」は、40年に向けて一段と深刻化する人材不足を見据えた、避けては通れない改革といえる。鷲見社長が強調するのは、「企業努力」の重要性だ。介護サービスという社会インフラを維持するためには、国による制度的な支援は欠かせない。しかし、それだけに依存するのではなく、介護事業者自らが業務改善を進め、生産性を高め続けることが不可欠だと訴える。
国の財源にも限りがある中、介護事業者には、人材をはじめとする限られた経営資源を最大限に生かす視点が求められる。介護テクノロジーの活用、現場オペレーションの見直しと標準化、さらには事業所再編まで含め、地域の実情に応じた最適な経営モデルを模索し続けているという。
持続可能な介護を実現するために、何を変え、何を守るべきか――。その問いに向き合い続けることこそ、これからの介護経営に求められる最も重要な企業努力なのかもしれない。
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