【株式会社大起エンゼルヘルプ 小林由憲社長(日本在宅介護協会副会長)】
介護業界では長い間、担い手が不足していて、私がこの業界に入ってから充足したことはありません。国は処遇改善加算などさまざまな方策を講じていますが、介護業界の賃上げの伸び率は他産業に追いついておらず、むしろ離されているので、人材がますます集まらない状況です。
経営面では、物価高騰がとても影響していて、特に入居施設で提供する食事の食材費や委託費などでかなり打撃を受けています。そんな状況でも、わたしたちに求められているのは事業の継続性ですので、知恵を絞りながらやっていかなければなりません。
■AIの活用をイメージしやすいのは入居系・通所系サービスなど
ほかに課題を感じているのは、ICTなどのテクノロジーを訪問介護の現場でどう活用するかです。当社ではかなり前から、パソコンの事務作業を自動化するソフトウエアロボット技術「RPA」を使って業務の効率化につなげています。
AIは、どの分野から導入したらよいか迷う事業者もいるかと思いますが、入居系や通所系の施設で「入り口」としてお勧めです。記録業務などで活用することにより、余った時間を利用者や入居者への対応に充てられ、サービスの質の向上につながりやすいからです。
担い手の確保が特に難しい訪問介護サービスでは、働き方を多様化させることで従事者の確保につなげられると考えています。その一環として、AIの活用が有効です。当社でも最近、訪問介護の一部事業所でAIを導入し、会議などの議事録の作成で使っていますが、十分に利用できているとは言えません。訪問介護や訪問入浴の現場でAIをもっと活用するにはどうすべきか考えていかなければなりません。
また、施設での見守り機器の導入は、特に夜勤業務のやり方がかなり変わったり、業務負担が減ったりする効果が期待できます。当社でも、1事業所で見守り機器を導入していて、利用者の転倒だけでなく、その原因も把握できるなど、効果を実感しています。自治体の補助金など活用できるものはどんどん活用するべきです。
■基本報酬アップや加算の整理など要望へ
27年度報酬改定に向けた国への要望は、まずは基本報酬の引き上げです。特に訪問介護は24年度報酬改定での引き下げ幅以上の報酬アップが必要ですので、日本在宅介護協会として訴えていきます。
2000年に介護保険制度が創設されて以降、昨今のような物価高騰や賃金上昇の局面はなかったので、世の中の動きに介護報酬もスライドする仕組みは検討されてきませんでしたが、これからはしっかりと議論していく必要があります。基本報酬の引き上げとは別建てで、「物価・賃金スライド」の仕組みも導入してもらいたいです。
もう1つの問題は、介護報酬が複雑になり過ぎていることです。介護保険制度がつくられた当初は約1,750だったサービスコード数が、今では2万7,000を超えています。加算が多過ぎて複雑化している今の状況では、加算を取得するため事業所に事務負担がかかり、取得の障壁になっている場合もあります。従って、算定率が高い加算は基本報酬にある程度組み入れて、全体的に加算をもっと整理して事業者・利用者の双方にとって分かりやすい仕組みにするよう求めていくつもりです。
当社は現在、都内を中心に訪問系サービスから入居施設まで事業を展開していて、事業規模で最も大きいのはグループホームの運営です。ただ、今後は特に事業環境が厳しい訪問入浴や訪問介護サービスをもう一度、社内で元気な事業にしたいです。そのためには、人材の確保が肝になるので、ICTなどのテクノロジーをもっと活用して職員の多様な働き方を進めていかなければなりません。【聞き手/構成・松村秀士】
【取材を終えて】
「人材確保は一丁目一番地の経営課題」だと指摘する小林氏は、打開策としてICTやAIなどを使った職員の多様な働き方の推進を挙げる。ICTなどにより業務効率化と生産性の向上、情報の共有、組織力の強化、職員の負担軽減といったメリットが想定されるが、テクノロジーの導入が進んでいない施設や事業所は少なくない。人材不足や物価高騰、人件費の上昇など厳しい経営を強いられている中、テクノロジーの導入はどうしても「後回し」になりがちだが、施設系でAIは活用しやすいという小林氏の言葉は参考となり得る。
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