【エルケア株式会社 宇野元博・代表取締役社長(日本在宅介護協会理事)】
当社は関西を中心に主に在宅介護サービスを展開していますが、一番の課題はやはり人材の確保です。特に訪問介護では担い手不足が顕著で、介護保険制度が創設された2000年ごろから従事している、当時40、50歳代だったヘルパーが、多くの地域で今も現場で主力として働いていると聞いています。
当社では、「介護職員等処遇改善加算」による収入を原資にして資格取得支援やインセンティブ報酬の付与などを行い、職員のモチベーション向上や頑張りにつなげようとしています。また、これらの取り組みを人材採用で打ち出し、処遇面で他社と差別化しようとしています。
施設や事業所は、公定価格で定められている介護報酬だけに依存していては、報酬改定のたびに業績が左右されがちです。それを回避するため、保険外サービスに活路があると考えています。当社では、高齢者用おむつのサンプルをメーカーから取り寄せて希望者に使ってもらい、フィット感や尿漏れなどに問題がなければメーカーに正式に発注し、希望者に販売する事業を既に行っています。今後はその販路を拡大していく予定です。また、見守り機器をメーカーから仕入れていろいろなプランを組み、他の施設や事業所に販売する事業も行う予定で、現在は実証段階にあります。
人材の採用面では、今年からインスタなどSNSを活用して介護の仕事の魅力などを発信し、応募につなげようとしています。SNSの開発・運用は、運用代行業者に業務委託していますが、いずれ内製化するつもりです。
かつては認知度がまだ低い首都圏での採用活動に苦戦していましたが、当社のSNSを見た人が首都圏の訪問入浴事業所に応募してくるなど、徐々に効果を実感しています。興味を持ってもらうだけでなく、どんな会社なのか、実際の現場はどのようなものかが分かると応募者の安心材料になるので、これからもSNSを活用した採用活動に力を入れていきます。
職員の退職をいかに減らしていくかも課題です。当社では元々、ヘルパーは訪問介護記録に対して訪問先のお客さまや家族などから捺印をもらった上で、その記録を事業所に毎回届ける必要がありました。この記録の負担と事業所に戻る時間的なロスをなくすため、非常勤も含め各ヘルパーにタブレット端末を1台ずつ貸し出し、それを活用して業務内容を入力してもらっています。お客さまの状態や様子は音声でも入力できるようにしていて、今ではヘルパーの勤務形態は基本的に直行直帰です。
■離職防止でメンター制度導入
訪問入浴サービスでの退職理由で多いのは、移乗で腰を痛めたりするなど身体的な負担です。そのため当社では、1人のヘルパーになるべく負担がかからないようにサービスの手順をヘルパーに示しています。また、人間の骨や筋肉、関節の力学的関係を生かして少ない力で効率的に身体を動かす技術「ボディメカニクス」に関する介助の研修も行っています。
事業所全体で行っているのは、現場の声が上長に届く環境づくりです。職員の話を所長が聞き、所長からエリア長が聞き取るというように。また、現場のスタッフが直属の上司に言いにくいことをメンターに相談できる仕組みも取り入れています。これらの取り組みの成果が徐々に出ていると実感しています。
■AIも積極的に活用
人材確保が難しい中、限られた人員で介護の業務を行うには、AIやICTの活用によって職員の業務負担を軽減させることも重要です。当社でも、ケアプラン作成の補助的なシステムとしてAIの活用を試しているほか、プラン作成の補助以外にも、新人職員の学習ツールとしても利用しています。ケアマネが作った過去のケアプランをAIがどんどん学習すれば、あと数年で質の高いプランの作成をAIが補助してくれるようになるでしょう。
今後、展開を考えているのは、サービス担当者会議の議事録や訪問介護で必要な帳票の作成といった事務業務をAIに代行してもらうことです。その実現に向けて社内に「AI推進委員会」を立ち上げ、毎週ミーティングを行っています。業務の効率化による職員の残業時間が減り、離職防止につなげていくため、年明けごろまでには拠点の事業所で何かしらの代行業務を行えるようにするつもりです。
【取材を終えて】
宇野氏は大学卒業後、当時、訪問介護サービス最大手だった会社に入社し、現場で奮闘した。その後、この会社が事業から撤退し、譲渡先の日本ロングライフでも訪問介護で実績を重ね、2018年にエルケアの社長にまで上りつめた。訪問介護の仕事のやりがいや喜び、厳しさ、大変さはもちろん、業界の問題や課題も肌で感じてきた経営者だ。宇野氏がインタビューで話していた「介護を究極のサービス事業と捉え、『お客様』の目線でサービスを提供する」という言葉からは、現場を知っている経営者として気概が感じられた。
【関連記事】


