【総論】高齢者の価値観多様化への対応と進化を迫られる介護事業者-野村総合研究所編vol.1
介護経営論考(3) オピニオン
介護経営に関わるさまざまな課題を未来に向けて深く考察する「介護経営論考」。シンクタンク5社(日本総合研究所・NTTデータ経営研究所・野村総合研究所・みずほ総合研究所・三菱総合研究所)がリレー形式で毎週論ずる。
■ 株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部付パートナー
兼)ヘルスケア産業コンサルティング部 Public & Digital Healthドメインリーダー
横内 瑛
介護業界は、2000年の介護保険制度創設以来、度重なる制度改正を経て、地域の一事業所にとどまらず、地域の介護サービス供給の中核として期待に応え、必要な機能を提供してきた。金銭的価値を超えたやりがいに魅力を見いだした多くの関係者が、全国各地で日々この業界の歴史を紡いでいる。一方で、介護保険制度が構想された1990年代には想定し得なかった環境変化に、今、私たちは直面している。
■では、2026年現在はどうか?
急速な物価上昇、金利上昇、強い賃上げ圧力など、事業環境はかつてなく難しい局面を迎えている。介護報酬を前提にした収益モデルを採る介護事業所は、急激な物価変動などに柔軟に対応することが難しい。こうした経済環境の厳しさに加え、労働市場での人材獲得競争も苛烈を極めている。平成の間でさえ、大型商業施設との競争にさらされ苦戦を強いられてきたが、今ではかつてのライバルでさえ従業員の確保に苦戦している。介護事業所が置かれる経営・労働環境は、四半世紀にわたる介護保険史を見渡しても“今”以上に厳しかったことはない。
こうした労働市場(供給側)の変化だけでなく、利用者(需要側)の変化も無視できない。利用者である高齢者の価値観の変化に対応し切れず、旧態依然とした介護を提供し続ける事業者が増えていることも、看過できない。こうした事業者は、高齢者から敬遠されるだけでなく、地域全体に介護サービスを受けることを敬遠させる遠因ともなっており、単に事業者だけの問題ではなく、行政としても地域の介護アセットを維持・充実させていくためにも求められている価値観を適切に事業者に伝えていく必要がある。特に、地域の高齢者の嗜好性やニーズを踏まえた事業所運営が期待されるところである。
■介護サービスのイメージ刷新が進んでいない
いわゆる“3K”と揶揄され、あまりよくないイメージが実態を超えて過度に流布されてきた。その結果、若年層の志望は伸び悩み、看護や保育に比べても人材確保は容易ではない状況が続いている。大型商業施設の開業が地域の雇用を吸収し、地域の介護事業所が黒字倒産に至るケースもよく耳にする話である。旧型の介護事業所のイメージがこびりついている事業所ほど、新規の雇用獲得も難しく、利用者からも選ばれにくい負のスパイラルに陥っている。
■自分自身が通いたいと思えるデイや施設はあるのか?
自身の両親・親戚を預けた当時のイメージと同じ“場”に、60歳代の自分が進んで通いたいと思えるか。施設内では毎日のように演歌が流れ、毎日が手遊びと手芸、体操…。そうした固定的なプログラムだけでは、通いたい動機は生まれにくい、という声も聞こえてくる。
これは、介護事業者だけでなく、通いの場など、自治体が主導する介護予防に関連する全ての事業においても通ずる。世代・価値観の急速な変化や多様化を意識したサービス企画が求められている。
上述したように介護業界はいま、団塊の世代の先を見据え、時代に即したサービスの再設計が求められている。この世代は第二次・第三次産業を担い、情報社会の礎を切り拓いてきた世代層でもある。高校・大学進学率も上昇していった世代でもあり、購買行動においても他製品との比較や科学的根拠を求め、単に横並びの消費行動はとらない傾向にある。敢えてここで言うまでもないが、高齢者と一言でいっても親と子ほど年齢が離れた世代が混在しており、その価値観の幅は極めて広い。
介護サービスに改めて目を戻しても、機能訓練などの介護予防プログラムにも、科学的根拠に基づく説明を求める傾向が強まっていくものと予想され、その傾向は今後さらに顕著になることは自明である。状態の維持・改善を念頭に置き介護サービスの利用を検討する高齢者やその家族・近親者が、要介護度が上がるほど保険報酬が高まり、逆に要介護度が低いほど保険報酬が低いという介護保険制度の逆進性 に気づき、状態改善を図れない事業者を積極的に避けていく。同時に、介護保険者である市町村、ケアマネジャーも積極的に機能回復に強みを有する介護事業者を選択し、本人の希望に沿わない漫然とした介護サービスを提供する事業者を淘汰していく、そういう時代に突入しようとしている。
本連載では、こうした社会状況の変化を捉えつつ、これからの介護・介護経営のあるべき姿を、制度・経済状況や技術、社会的な変化に目を向けつつ20-30歳代の若手コンサルタントを中心に継続的に発信していく。1950年代生まれをターゲットとした介護事業経営とは何か? 介護保険制度の限界を超え、期待に応える介護サービスを探索するきっかけにしてほしい。
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