膨れ上がる社会保障費を背景に、持続可能な医療や介護の姿とは-。CBnewsは、日本医業経営コンサルタント協会とタッグを組み、医療や介護の未来像を探す連載寄稿「多事創論」をスタート。5回目は認定登録 医業経営コンサルタントの三嶋理佐氏。
医療機関の採用環境は、今後さらに厳しくなることが予想される。厚生労働省も、人口減少や若い世代の職業意識の変化、医療ニーズの多様化などを背景に、医療従事者の確保が困難になっていると示している。では、採用難の時代に「選ばれる医療機関」は何が違うのか。これまで医療機関の組織づくりを支援してきた中で、その出発点は給与や福利厚生よりも先にあると、私は感じている。経営者の思いや理念が、自分の言葉で語られているかどうかである。
「なぜこの地域で医療を行うのか」「どのような患者さんに、どのような価値を届けたいのか」「職員にどんな人に成長してほしいのか」。こうした思いが頭の中にあるだけでは、求職者には届かない。言語化して初めて、求職者は「自分はここで働きたいか」を判断できる。逆に医療機関にとっても、自院の価値観に合う人から応募してもらうためのフィルターになる。採用時のミスマッチを減らすには、万人に好かれる求人をつくるのではなく、「私たちは何を大切にする組織なのか」を明確に示すことが重要だ。
そして、採用できれば終わりではない。言葉にした理念は、朝礼、会議、面談、日々の判断の中で何度も伝え続ける必要がある。さらに重要なのは、院長や経営者自身がその理念を基準に行動することである。職員は、掲示された理念より、経営者の実際の判断を見ている。言っていることと、やっていることが一致している。その積み重ねが、組織の「判断軸」をつくり、やがて文化になる。時間はかかる。しかし、私はこれが定着につながる最も確実な道だと考えている。
もう一つ、選ばれ続ける医療機関に欠かせないのが人事評価制度である。多くの医療従事者は、ただ働くだけでなく、「ここで何を身につけられるのか」「次にどこを目指せるのか」を重視する。にもかかわらず、医療現場では、評価が院長の感覚や勤続年数に委ねられ、本人が成長の方向性を描けないケースも少なくない。評価制度は人を順位づけるためのものではなく、成長の道しるべである。業務の量・質・態度、専門性、組織への貢献など、自院が大切にする行動を評価軸として明確にし、面談を通じて次の目標を一緒に考える。「この医療機関にいれば成長できる」という未来を見せ、実現を支えることが働きがいにつながる。
厚生労働省の医療勤務環境改善マネジメントシステムでも、改善計画の項目に「働きがいの向上」が位置づけられている。採用、定着、育成は別々の施策ではない。経営者の思いを言葉にし、採用で伝え、日常で体現し、人事評価で成長を支える。この一貫性こそが、採用難の時代に選ばれる医療機関の共通点ではないだろうか。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会
医療・介護・福祉分野の経営支援を担う専門家「認定登録 医業経営コンサルタント」の養成、認定を行う。調査研究や研修、資格制度の運営を通じて医業経営コンサルタントの向上を図り、地域医療や社会保障の発展に貢献している。
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