LIFE時代の介護経営 ─ フィードバックデータを活用した質改善サイクルの構築 ─
みずほ総合研究所編vol.3介護経営論考(14) オピニオン
■ みずほ総合研究所
ソーシャルイノベーションコンサルティング部
ウェルビーイング社会実装チーム
コンサルタント 名取彩雲
1.科学的介護推進とLIFE活用の現在地
介護分野では、経験や勘に依存するのではなく、利用者の状態やケアの結果をデータで捉え、よりよい支援につなげる「科学的介護」の推進が求められている。2021年の介護報酬改定で導入された科学的介護情報システム「LIFE(Long-term care Information system For Evidenceの略)」へのデータ提出は、各種加算の算定とともに事業所に定着しつつある。「令和6年度介護報酬改定におけるLIFEの見直し項目及びLIFEを活用した質の高い介護の更なる推進に資する調査研究事業」では、LIFEの導入により、アセスメント項目の統一や管理の効率化、評価漏れの防止といった効果がみられた一方で、フィードバック機能から得た情報を日々のケアに結びつけるまで至っていないと回答した事業所が多かった。
LIFEの目的は、加算の算定に必要なデータを提出することにとどまらず、利用者の状態変化を把握し、ケアの妥当性を検証してサービスの質を高めていくPDCAサイクルを回すことにある。これは、持続的な事業運営を支える経営上の重要な基盤である。そこで、本稿では、当社が厚生労働省の「令和5・6年度老人保健健康増進等事業」において作成した「簡易式生活・認知機能尺度」を基に、LIFEに導入された「生活・認知機能尺度」を取り上げる。その事業所フィードバックをケアの質改善サイクルに組み込む方法と、経営判断や資源配分に活用するための方法を考察する。
2.生活・認知機能尺度のフィードバックから何が見えるのか
生活・認知機能尺度は、利用者の認知機能と生活機能を簡便に評価するために開発された指標である。身近な物を置いた場所や日常の出来事を覚えているか、日時・場所を認識できるか、意思を会話で伝えられるか、服薬、着替え、電化製品の操作など、生活場面で必要となる機能を複数の項目から捉える。全項目の合計点が高いほど機能が高いことを示し、定期的に評価することで、一時点の状態だけでなく利用者の変化を追うことができる。
事業所フィードバックを読む際は、まず自事業所の結果を、全国または同じ都道府県・サービス種別の事業所と比較し、どの項目に特徴があるかを把握する。ただし、平均との差をそのままケアの良否と捉えるのではなく、利用者の要介護度や認知症の状態、入退所の状況など、利用者構成の違いを踏まえて解釈する必要がある。加えて、自事業所における経時的な変化、評価項目別の傾向、改善・維持・低下した利用者の分布を確認し、「どの利用者に、どのような変化が生じているか」を具体的に捉えることが重要である。
例えば、全体平均が横ばいであっても、多くの利用者が機能を維持しているなら、重度化防止に向けたケアが機能している可能性がある。また、認知症のある利用者が多い事業所でも、生活・認知機能尺度の一部項目が全国や都道府県の平均を上回っていれば、その背景にある支援方法や体制を確認し、自事業所の強みであるかを検討できる。一方、一部の改善者によって平均が押し上げられ、特定の利用者層では低下が続いている場合もあるため、平均値だけでなく、個々の変化や項目ごとの偏りまで確認することが欠かせない。フィードバックから読み取った特徴を基に、「なぜこの変化が生じたのか」「どのケアが影響したのか」という仮説を立て、ケアプラン、個別記録、職員の気づき、利用者・家族の意向と照らし合わせる。そのうえで目標やケア内容を見直し、実践後の変化を改めて確認することが、LIFEを活用したPDCAサイクルである。
3.フィードバックデータをケア改善と経営判断につなげる
生活・認知機能尺度の結果は、利用者構成や状態像の違いを踏まえて解釈する必要はあるものの、利用者の機能がどの程度改善・維持されたかを把握するアウトカム指標の一つになり得る。
稼働率や収支、人員配置といった従来の経営指標に加え、利用者に生じた変化を継続的に把握することで、「何人にサービスを提供したか」だけでなく、「提供したサービスがどのような価値を生んだか(利用者の生活機能や認知機能にどのような変化が生じたか)」を経営会議で議論できるようになる。
LIFEのデータを経営情報に変える第一歩は、仮説を立てる材料として扱うことである。例えば、生活・認知機能が維持・改善した利用者の割合が自事業所の過去実績と比べて低い場合、利用者の重度化や入退所の影響を確認したうえで、アクティビティの量・内容が利用者の興味や残存能力に合っているか、ケアプランの目標と日々の支援が連動しているか、介護職・看護職・リハビリテーション専門職などの間で観察結果が共有されているかを点検する。評価項目別に低下が集中していれば、服薬支援、着替え、コミュニケーションなど、改善対象をより具体的に絞り込める。
原因分析では、データだけで答えを出そうとせず、個別記録や職員の気づき・実感と突き合わせることが重要である。厚生労働省が公表する活用事例では、事業所フィードバックを通じて、行動・心理症状(BPSD)がみられるにもかかわらず、認知症の診断を受けていない利用者が多いことを把握した。職員の実感とも照らし合わせたうえで、より専門的な認知症ケアを提供するために必要な体制の検討につなげている。このように、これまで職員が感覚的に捉えていた課題も、フィードバックデータが示す自事業所の特徴と照らし合わせて確認することで、客観的に捉えられるようになり、実態に合った適切なケアの提供に取り組みやすくなる。
LIFEのフィードバックを経営に活用するには、指標を増やしすぎないことも大切である。複数のLIFE項目を組み合わせ、利用者の状態像を多角的に理解することも有効だが、まずは取り組みやすさや重要度の観点から活用する指標を選び、経営会議や委員会で定期的に確認する。あわせて、職員教育の内容、人員配置やシフト、支援プログラム、会議体の運営方法などの見直しに結びつけることで、組織として優先順位を定める判断材料となる。
さらに、データ活用を一過性の取り組みにしないためには、管理者が目的と優先順位を示し、結果を意思決定につなげることが欠かせない。立場や職種を問わず、定期的にフィードバックを確認・共有し、「どの数値が問題か」ではなく、「利用者に何が起きているのか」について意見を出し合い、個別支援と事業所全体の改善を往復しながら検討する。データに不慣れな職員には、グラフの着目点や考察例を示し、気づきを言語化できるよう支援することも有効である。
現場の実感とデータを結びつけ、小さな改善と成果を共有する積み重ねが、データ活用を組織文化として定着させる。
4.おわりに
LIFEは、事業所を単純に評価・序列化するためのものではなく、利用者の状態を把握し、ケアの改善を支援する仕組みである。データを踏まえて多職種で協議しながらPDCAサイクルを回すことは、難しい取組のように感じられるかもしれない。しかし、今回取り上げた生活・認知機能尺度は、認知症ケアに携わった経験がない人でも、簡便かつ短時間で評価できるよう設計されており、立場や職種を問わず理解しやすいツールである。LIFEの活用をこれから始める事業所には、まず生活・認知機能尺度を、認知症ケアに関わる人々の「共通言語」として用いることを提案したい。利用者の変化を可視化し、多職種で次の検討を始めるための材料となるからである。
生活・認知機能尺度に限らず、LIFEの各指標は、利用者のアウトカムを継続的に把握し、ケアの強みと課題を捉えるための重要な情報源となる。LIFEを加算算定のためだけに用いるのではなく、現場の気づきをデータで確かめ、よりよいケアと持続的な事業運営につなげる仕組みとして活用していくことが重要である。
※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。
介護経営に関わるさまざまな課題を未来に向けて深く考察する「介護経営論考」。シンクタンク5社(日本総合研究所・NTTデータ経営研究所・野村総合研究所・みずほ総合研究所・三菱総合研究所)がリレー形式で毎週論ずる。(次回配信は11月13日に三菱総合研究所vol.3を予定)
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