【相談支援センターこすもす所長・りべるたす株式会社代表取締役 伊藤佳世子】
先日、肺がん末期を告知された80代の男性の看取りにかかわりました。訪問診療に同行した際、医師が「あなたはどのくらい生きたいですか?」と、その方に尋ねました。すると、その男性は「もう十分生きました」とおっしゃいました。治療方法を説明しても、「治療は要りません。私は痛くないし、苦しくありません。病院には行きません」とおっしゃられ、治療を拒否されました。医師はご家族にも状況をよく説明されていましたが、ご家族も本人の意思を尊重したいという意向で、そのまま在宅での暮らしは続きました。余命は2か月くらいということでした。
その後、介護保険の認定のために調査員が自宅を訪れた時には、屈伸運動などをしてみせ、元気だというアピールをされていました。肺がんの場合、胸の痛みや苦しみがあることから在宅酸素療法を勧められましたが、「苦しくないし、何よりたばこはやめない」と、酸素を使用することなく、最後までたばこを吸い続けていらっしゃいました。そうして余命宣告通り、ご自宅で安らかに眠るように逝ってしまいました。ご家族はよい最後だったと語っていました。
周囲でかかわる者としては、「これでよかったのか」などの振り返りや考察を忘れてはいけませんが、このケースのように、ご本人がはっきりと意思表示をしていて、ご家族も同意していた場合は、あまりジレンマを感じることはありません。
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次回の記事配信は、6月4日5:00を予定しています
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