【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
2024年度の介護報酬改定でマイナス改定となり、経営が立ち行かなくなった訪問介護事業所が相次いで廃業の憂き目に遭っている。そうならなくても、減収のために訪問介護員を正規雇用できずに、登録ヘルパーとしてパート勤務でしか雇えないという状況に陥っている訪問介護事業所もある。だが、そのような不安定な身分で働いてくれるのは、介護施設で現役をいったん退いた高齢者などであることが多く、若者は登録ヘルパーとしては働いてくれない。
いくら処遇改善加算の加算率が高くとも、掛け算する月の総収入が減れば算定額も減るのだから、給与改善の原資を加算に頼っている訪問介護事業所は、ヘルパーの昇給もままならない。そのため訪問介護員はますます不安定な職業=「底辺職」としてのイメージが広がっている。そのような状況が影響し、訪問介護員になるために必要な介護職員初任者研修を開催しても受講者が集まらない地域が多い。
このように訪問介護員の成り手が不足し、なおかつ実務に就いている訪問介護員の高年齢化も進んでいることで、70歳代の要介護者を担当している訪問介護員が利用者よりも年齢が高いなんていう状態も珍しくない。しかし、そうした高齢ヘルパーがいつまでも働き続けるわけにはいかず、そうしたヘルパー頼りの訪問介護事業者は廃業の一歩手前といってよい。「顧客あってサービス提供者なし」という状態で、経営が続けられない訪問介護事業者が増え、訪問介護サービスのない真空地帯も生じ始めている。
そうした状況を少しでも改善しようとしてか、厚生労働省老健局が2月5日に出した通知「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業の実施について」では、24年度の補正予算に盛り込んだ訪問介護事業所に対する支援策の具体像を示した。
この事業には約90億円の予算が新たに投入され、ホームヘルパーの確保に向けた広報や研修体制の整備などを後押しするとしている。具体的には、複数の小規模な事業者が連携し、共に人材確保や経営改善を図る協働化・大規模化の取り組みに対し最大で200万円の補助を行うとともに、それ以外の小規模事業所に対しても人材確保の広報に最大30万円の補助を行う内容が示されている。通知によると、人材や利用者の確保に向けたホームページの開設・改修、リーフレットやチラシなど広報宣材の作成・印刷などに充てる経費として、1事業所当たり最大30万円を補助する。また、ホームヘルパーの研修の受講やキャリアアップの仕組み作りに充てる経費として、1事業所当たり最大10万円を補助するという。
この「愚策」としか思えない内容を見てがっかりした関係者は少なくないだろう。訪問介護員の絶対数が増えない中、広報をいくら充実させても意味がないのである。それは現役訪問介護員の転職が容易になる効果しかなく、社会全体の訪問介護員確保には結びつかない。そして、そのような事業展開でもうけるのは、ホームページ作成会社だけだ。厚労省の官僚はそれらの会社役員に天下りでもするための利権を与えたいのだろうか。
■ヘルパーの初任者研修の要件見直しを
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