【日本医学ジャーナリスト協会 幹事
厚生労働省「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」構成員 三浦直美】
医療機関のホームページやSNSは、患者(ユーザー)と医療機関をつなぐ大事なツールといえます。特に、昨年の医療機関の倒産件数が過去最多となるなど経営環境が厳しさを増す中で、いわゆる“集患”のためにホームページやSNSの活用を考える所も少なくないのではないでしょうか。ここで気をつけなければいけないのが、前回、前々回の記事でも述べてきた「医療広告規制」との兼ね合いです。ホームページは広告そのものではありませんが、2017年の医療法改正により広告規制の対象となりました。SNSなども同様です。集患に目を向けて良いことばかり並べれば、医療法に違反することにもなりかねないのです。
■規制主旨を理解し“見る目”を
いま一度経緯を振り返ると、発端は美容医療をめぐる消費者トラブルの多発でした。医療は生命・健康に関わるサービスであること、また専門性が高くサービス提供者とユーザーの情報格差が大きいことから医療広告については厳しく規制されてきましたが、ホームページなどは対象外だったことが問題となり、法改正へとつながりました。
具体的には、医療機関のあらゆる広報物やメディアにおいて虚偽・誇大・比較優良広告にあたる表現は罰則付きで禁止されました。患者の主観に基づく体験談、詳細な説明のない術前術後(ビフォーアフター)の写真も掲載禁止です。一方、広告は定められた事項(広告可能事項)しか掲載できませんが、それでは患者に必要な情報を十分伝えられないため、ホームページなどは一定の要件のもとに広告可能事項以外も掲載できます(限定解除=表=)。
要するに、不当な広告で患者が誘引されるのを防ぐとともに、患者が医療に関して適切に選択できるよう正確な情報を提供するのが狙いなのです。詳しくは厚生労働省の指針(医療広告ガイドライン)にまとめられているので、広報に関わる人は折に触れて目を通せるようにしておくとよいでしょう。
虚偽・誇大広告はイメージしやすいと思いますが、少しやっかいなのが比較優良広告です。比較優良とは、他と比べて自院の優良性を示すことで、「県内一」「最高の」といった最上級の表現はNGとなります。意外とこの点は見落とされがちで、こうした表現を使っているホームページが散見されます。
ユーザー側も、なぜこうした表現がNGなのか規制の主旨を理解し、不当に誘引されることのないよう“見る目”を持ちたいものです。優良性を示す表現や、ことさらに良い治療成績を強調するものなどは、比較優良広告ではないか、虚偽・誇大広告ではないか、根拠はあるのか、と慎重になってみることが重要です。
■SNSの時代にどう対応するか
ところで、医療広告規制は主にホームページを想定して議論されてきました。しかし現在、医療機関の広報ツールはSNSや動画に広がっています。むしろ、そちらを主力としている所もあるでしょう。規制の内容はホームページの場合と変わらないものの、その適合性についてはますます分かりにくくなっているともいえます。
例えば、SNSの場合はコメント欄があり、コメントの中に体験談などの禁止事項が入っていれば違反となります。動画の中で患者が体験を語っていても同様です。また、ビフォーアフター写真は費用やリスク等の詳細な説明がある場合のみ掲載可能ですが、ホームページと違ってスペースの限られるSNSでは違反しがちです。自由診療や国内未承認医薬品について、限定解除要件を満たす十分な情報を載せるのはなかなか困難でしょう。
さらに、「◯◯キャンペーン」「50%オフ」など費用面を強調した広告や、「◯◯プレゼント」など、提供される医療とは関係ない事柄による誘引は品位を損なう広告としてNGとされているところ、こうした表現はSNSにおいて多く見られます。厚生労働省は、ホームページなどが医療広告ガイドラインを遵守しているか監視する「ネットパトロール事業」を行なっていますが、なかなか監視の目がSNS等まで行き届かないという現状もあります。SNSや動画への対応は、規制する側、される側の双方にとってやっかいな問題といえるでしょう。
■ふくらみ続ける「事例解説書」
こうした複雑で分かりにくい医療広告規制について現場に理解してもらうため、厚生労働省はガイドラインとは別に「Q&A」および「事例解説書」を作成しています。事例解説書は、ネットパトロール事業などで見つかった実際の事例に基づいて規制の内容や改善例を解説したもので、具体的で分かりやすいといえます。近年問題となっているGLP-1ダイエットなど時代とともに生じる新たな問題を受けて改訂を重ねており、今年3月には第5版が公表されました。本改訂では、エクソソーム・幹細胞培養上清液を用いた医療、再生医療に関する誇大広告の事例や、動画における体験談の事例などが新たに加わりました。ちなみに、前回の改訂(第4版)では、SNSや動画サイトにおける事例に関する章が新たに設けられています。
しかし、こうして事例集を充実させると、どうしてもページ数が増えていくことになります。今回の第5版は70ページと、かなりのボリュームです。以前から活用していれば新たに加わった事例や改訂された箇所に目を通せばよいのですが、ゼロから読もうとする人は苦労するでしょう。時代による変化を反映し、内容を充実させることは重要ですが、今後は一覧性、検索の利便性を向上させるとともに、簡略化してより分かりやすくするなどの工夫が必要になるかもしれません。
最近ではホームページやSNSの運用を代行するサービスも増えており、自院で運用に携わっていない場合もあるでしょう。その場合でも、もしガイドライン違反や不適切な誘引があれば患者との信頼関係に関わります。医療機関自身が医療広告規制を理解し、患者の適切な選択に資する有益な情報を提供してほしいものです。三浦直美(みうら・なおみ)
日本医学ジャーナリスト協会 幹事。
厚生労働省「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」構成員、日本音楽療法学会認定音楽療法士。1991年時事通信社入社。社会部科学班(医療担当)、専門情報誌『厚生福祉』編集長、編集委員などを経て、2017年4月よりフリー。
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