国立大学病院がかつてない経営危機に直面している。全国42の国立大病院では、2024年度の経常収支が286億円の赤字に達した。地域医療の「最後の砦」として難易度の高い高度医療を担い、民間病院なら手を引くような不採算部門も引き受ける。その役割ゆえに、物価高や賃上げなどの影響をまともに受け、巨額の赤字を抱える事態になっている。収支の改善が喫緊の課題となる一方で、職員の労働環境の悪化への懸念も深まっている。危機に瀕する現場を取材した。【渕本稔】
「まるでお化け屋敷みたいですね」。核医学検査を受けるため、岡山大学病院(岡山市北区)の核医学診療室を訪れた患者が、思わず漏らしたひと言だ。この診療室がある中央診療棟は築50年。1階にあるものの、明るく開放的なほかのフロアとは対照的に、薄暗くどんよりとした空気が漂う。照明や内装には長年の使用によるくすみが見られ、壁や天井の一部には細かな亀裂も走る。排水管の老朽化に伴う漏水が確認されたこともあり、その痕跡が残る箇所もある。慣れないうちは、夜になると少し心細さを覚える職員もいる。
放射性医薬品を用いて患者の臓器の機能を測定するガンマカメラの操作室でも漏水が発生し、機材が水浸しになったことも。「操作中ではなく、診療に支障は出なかった」と安堵する主任診療放射線技師の吉富敬祐さん。現在、操作室は別の場所に移しており、漏水のあった部屋は使用を控えている。
放射線診療に関する記録の保管や放射線管理区域に出入りする際に着替えなどを行う5畳ほどの部屋の壁には長く伸びた亀裂が目に付くなど、いたるところで老朽化が進む。
吉富さんは、「耐震補強や補修を適宜行い、安全に検査や治療を受けてもらえるように日々対応している」と強調する。
■施設・設備の改修・更新は後回しに
こうした老朽化への対応として、岡山大病院は
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