医療機関をゴールに導くグランドデザインを
「撤退の決断、必ずやらなくては」
千葉市の幕張メッセで10月に開催された「メディカル ジャパン 東京」(主催:RX Japan)では、医療や介護などに関する全84講演が行われた。CBnewsでは、病院経営のヒントになる4つの講演を連載で紹介する。4回目は、「超高齢・人口減少時代における病院のあり方と地域連携」をテーマに講演した日本病院会会長の相澤孝夫氏。
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相澤氏は講演で、生産年齢人口の急激な減少と高齢化が2025年以降に進むことで、地域医療の提供に大きな影響が及ぶことを指摘した。働き世代の減少によって病院や診療所では医療従事者の確保がさらに困難になる一方、高齢化で医療需要が変化するため。
ただ、東京都では2020-50年に人口が増える見込みなのに対し、大半の地域では人口減少が進む。秋田県では総人口が4割超減少するとみられるなど地域差が大きい。相澤氏は「東京とそれ以外の地域では状況が全く違う。だから議論をしてもなかなかかみ合わない」と述べた。
人口減少が進む地域では医療需要も減少するため、医療機関は病床削減など医療体制の縮小を進める必要がある。医療機関が存続するには診療圏を広げて新たな患者を確保するしかない。
相澤氏は「地域を広げると何が起きるか。従来そこにあった医療機関と競合になる。どちらかが勝つまでそれを続けるのか。それとも、役割分担して互いに成り立つようにするのか。それこそ地域が今、考えることだ」と指摘した。
高齢化に伴い医療需要も様変わりする。国の推計によると、全国ベースでこれから増加が見込まれる疾患は、85歳以上に多い肺炎や心不全など手術を伴わない内科系の疾患だ。現役世代が中心の「治すための医療」は急激に減る。
相澤氏は「今の医療提供体制のままでは需給ギャップが起きて、患者さんが路頭に迷ってしまう。高齢な患者さんの急増に対応するための仕組みを作る必要がある。そのことを自覚し、実践しなくてはならない時代がやってきた。しかし、私たちはなかなか変われないのが現状だ」という認識を示した。
地域での病院の役割を明確にして、需要に見合った医療提供体制を整備するために今何をするべきか。相澤氏は、全国の医療機関を再編に導く医療提供体制のグランドデザインの必要性を訴えた。
相澤氏が提言するのは「地域型病院」や診療所と「広域型病院」が地域ごとに役割分担するビジョンだ。地域型病院は一般的な入院医療に幅広く対応し、高齢者が「日常生活圏」で最期まで暮らせるように支援する。さらに、地域型病院の一部を「地域密着型病院」と位置付け、診療所と協力して在宅医療の需要もカバーする。
一方、広域型病院には全身麻酔手術など高度な医療に対応できるように医療従事者や医療機器を集約し、複数の地域型病院や診療所をバックアップする。
地域での役割分担を決めるには、どの医療から撤退してどこに注力するのか、それぞれの病院が決断を迫られる。これまでやってきたことから身を引く決断はとても難しい。
しかし、相澤氏は「これから起きる人口減少に対応するにはそれを必ずやる必要がある。論理的に考え、工夫しながら提供体制を作り替えないと日本の医療の安全は守れない」と呼び掛けた。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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