介護経営に関わるさまざまな課題を未来に向けて深く考察する「介護経営論考」。シンクタンク5社(日本総合研究所・NTTデータ経営研究所・野村総合研究所・みずほ総合研究所・三菱総合研究所)がリレー形式で毎週論ずる。
■みずほ総合研究所 ソーシャルイノベーションコンサルティング部
ウェルビーング社会実装チーム
村井 昂志
1. 新たな地域医療構想と介護保険サービス
2026年7月、厚生労働省は、2040年の地域の医療提供体制を展望する構想として、各都道府県が2028年度までに策定する「新たな地域医療構想」に関するガイドラインを公表した。
このガイドラインは、現行の地域医療構想のガイドラインと比べ、介護保険施設や居宅サービスなどを含む医療・介護提供体制全体を対象とし、これらを組み合わせて慢性期の医療需要や早期退院後の受け皿確保に対応することを、より明確に求めるものである。
介護保険サービスは、退院後の高齢患者の受け皿のひとつとして、既にさまざまな役割を果たしてきたと考えられるが、今後、これまで以上に、慢性期の医療需要の一端を担う機能と容量を発揮・確保することが求められるだろう。
本稿では、少子高齢化・人口減少に伴う入院医療の需給変化と、それに対する介護保険サービスの対応について、公的統計データから過去の経過を振り返り、将来の展望にも言及する。
2. 高齢化による入院医療の需要の押し上げ効果の中で、入院患者数は微減
入院医療の需要は高齢になるほど増大するため、高齢者が増えれば、入院医療需要を押し上げることとなる。性・年齢別人口と、患者調査による入院受療率(=人口当たりの入院患者数)を用いて、過去-将来の理論上の入院医療需要の変化を見ると、2000-40年の40年間のうち、需要の押し上げ効果が最も強かったのは、「団塊の世代」が後期高齢者となった2020→25年より前の、2000→05年の5年間であることが分かった(図1理論値)。
これは、戦前世代の寿命が伸び、85歳以上人口が急増したことが主要因と考えられるが、各年齢の入院受療率が変化していなければ、2000年代に入院患者が急増していたはずである。
しかし実際には、この間も入院患者数は微減を続けた(図1実績値)。病床数が他国と比べて極めて多い状態からの調整という側面が強いとはいえ、日本は、1980年代以来の病床数抑制策や平均在院日数の短縮を通じて、入院受療率を大幅に引き下げ(25歳以上の各年齢層で、2002→23年に約45%減)、急速な高齢化の中でも、入院患者数の増加を抑えてきたといえるだろう。
それでは、入院患者数の増加が抑えられる中で、患者はどのような受け皿に移行してきたのか。まず医療について見ると、2002年以降、年齢層別の入院外の受療率は、高齢者を中心に低下傾向にある一方、入院外のうち往診・訪問診療などの在宅医療は、逆に全世代的な上昇が起きている(表1)。
3. 介護では、医療系職種による訪問系サービスが急増し、短期入所系サービスが減少
次に介護について見ると、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅療養管理指導等の「医療職による訪問系サービス」の受給者(利用者)数・利用回数が急増し、訪問介護の利用回数や、特定施設の受給者(入所者)数も増えている。一方で、特養・老健・介護医療院などの施設系サービスや通所系サービスの多くは、受給者(入所者・利用者)数・利用日数自体は増えつつも、その水準は、高齢化に伴う要介護者数の増加と同程度に収まっている。さらに短期入所系サービスは、受給者(利用者)数・利用日数自体が減少傾向にある(図2、図3)。

入院医療の機能を「滞在場所」と「診療・ケア」に分けて考えるならば、入院の代替的な受け皿となったのは、滞在場所の面では、特定施設(介護付有料老人ホームなど)や高齢者向け住宅、一般の居宅であり、診療・ケアの面では、在宅医療や訪問系の介護保険サービスであると考えられる。
特に後者を、医療・介護従事者の視点から言い換えるならば、「勤務先の施設・事業所に患者・利用者を迎え入れる」サービス形態から、「従事者が患者・利用者宅を訪問して診療・ケアを提供する」サービス形態への移行が起きた、ともいえる。
4. どのような形態の介護保険サービスが多いかは、都市部と農村部で大きく異なる
では、こうした移行は全国一律に進んだのだろうか。
一般に、人口密度が低い地域での在宅医療・訪問看護・訪問介護等の訪問系サービスは、患者・利用者宅を巡回する距離と時間が長くなる分、提供難度が上がる。実際に、介護保険サービスについて、要介護者数当たりの利用者数・利用回数を保険者(≒市町村)別に整理すると、訪問系サービスは人口密度の高い地域に、施設系サービスや短期入所系サービスは人口密度の低い地域に、それぞれ多い傾向がみられる。
これについて、2015年以降の変化を見ると、訪問看護の利用者数・利用回数は人口密度の高い地域で増加率が高く、逆に施設系サービスの利用者数は人口密度の低い地域で増加率が高い(または減少率が低い)傾向がみられる。介護サービスの提供構成に関する都市部―非都市部の差は、広がりつつあるといえる(図4、図5)。
一方、これは地域間の比較による相対的な傾向にすぎず、「医療職による訪問系サービス」は、50人/㎢未満の人口密度がきわめて低い地域でも、顕著な増加をみている。中でも訪問リハビリテーションや居宅療養管理指導の利用者数は、むしろ人口密度が低い地域の方が増加率が高くなっている(介護保険事業状況報告)。
市町村単位で人口密度が低い地域であっても、全域で訪問系サービスの提供が困難とは限らず、「主要な集落などではサービスの提供・拡充も可能」といった状況が考えられる。

5. 今後の展望 ―立地条件に応じた専門職の拘束時間の短縮が必要
ここまで、公的統計データをもとに、過去から現在にかけての「入院から在宅医療・訪問系サービスへの移行」を概観してきた。この変化は、今後も続くのだろうか。
高齢化による入院需要の押し上げ効果は今後次第に弱まり、2035年頃にはマイナスに転ずることが見込まれる。一方、この押し上げ効果を打ち消してきた入院受療率の低下は、平均在院日数の顕著な短縮によるところが大きいと考えられる。医療依存度の高い患者の在宅受入れ能力の制約などを考えると、これ以上の平均在院日数の短縮は、どこかで限界点を迎える可能性がある。
入院からの移行の受け皿となってきた在宅医療や訪問系の介護サービスについては、今後の増加をどのように見込むべきだろうか。これまでの増加はきわめて急激なものであった。今後、現役世代の減少により医療・介護従事者の確保が難しくなることを考えれば、これまでのような急激な増加は見込みがたく、近い将来、拡充・拡大は限界点を迎えることとなるだろう。
では、医療・介護のサービス提供者や社会全体として、どのような対応策をとりうるだろうか。
オンライン診療などを活用した「専門職の訪問を伴わない、または訪問回数を減らした在宅医療」の拡充は、社会において不可欠になるだろう。一方で、オンライン診療自体の制約を考えれば、入院からの受け皿の確保を、オンライン診療の拡充のみで実現することも困難である。
そのためには、入院・外来・在宅医療、施設系・居住系・通所系・訪問系といったさまざまなサービス形態について、「患者・利用者当たりにかかる専門職の拘束時間」を地域ごとに可視化し、その地域の立地条件等に応じて、より専門職の拘束時間の短いサービスへのシフトを図ることが必要ではないだろうか。
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