AI活用を「前提」とした医療の在り方を追求する
変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~vol.9 PR



ネットワークインフラとITサービスを手掛ける「アライドテレシス」(東京都品川区)が提供する、医療現場で変革の旗手を担うキーパーソンと考える特別企画「変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~」。Vol.9は、独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター医療DX推進部特命部長の佐藤智太郎氏と、生成AIによる業務効率化の可能性や導入・定着の条件、ネットワーク、セキュリティー、AI時代の医師の役割について考えました。
(アライドテレシス株式会社 制作:CBnews編集部)
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■「知識の優位」から「信頼の優位」へ
江口氏 生成AIは今後、大規模病院に限らず、中小規模の医療機関にも広がっていくと予想されます。活用にあたって医療機関は何を意識すべきでしょうか。
佐藤氏
医療従事者に求められる役割は大きく変わると思います。知識を持っていること自体は、以前ほどの優位性を持たなくなるのではないでしょうか。今や、患者さんもChatGPTなどで調べてから受診する時代です。そうした中では、「この医師、この病院なら任せられる」という信頼が、より重要になると考えています。その信頼を支えるのは、患者さんへの説明だけではありません。診療の経過や判断を、カルテや退院サマリーに適切に残していることも重要です。生成AIは、その記録を基に文章を作りますが、元の記録が不十分では、良いサマリーはできません。AIを活用するほど、患者さんから必要な情報を聞き取り、正確に記録するという医療の基本が問われることになると思います。
江口氏 AIによって知識へのアクセスは容易になりますが、その一方で、医師には患者さんとの信頼関係の構築や最終的な判断といった、より本質的な役割が求められるようになるということですね。
佐藤氏 そうです。知識量ではAIが優位になるでしょうけれど、患者さんに説明し、納得してもらい、最終的な責任を負う部分は人間に残ります。
■まず退院サマリー、効果を数字で検証
江口氏 生成AIを実際の業務に取り入れるにあたっては、適用領域の見極めも重要だと思います。名古屋医療センターでは、どの業務から活用を始められたのでしょうか。
佐藤氏 正式導入したのは退院サマリーの作成支援です。電子カルテの記録からAIが下書きを作り、医師が確認、修正して確定します。退院サマリーは比較的定型化され、基本的には記録を要約する業務なので着手しやすい。一方、看護記録は記載の幅が広く、難易度が高くなります。
江口氏 医療機関として導入を進めるには、効果を客観的に示すことも重要になると思います。実際にはどのような成果が見えてきましたか。
佐藤氏 導入前には3、4カ月ほど13人の医師で試し、作成時間は平均19.8分短縮しました。年間約1万6,000件、1件当たり20分近く短縮できれば、年間約5,500万円の削減効果になるという試算です。導入から約1年後も十数分程度の短縮効果を確認しています。ただ、条件で変わるため、導入後も効果測定が必要です。生成AIや音声入力は診療報酬とも無関係ではありません。診断書作成支援と音声入力によって医療事務作業補助者の業務を効率化した場合、ある病院では年間約1,300万円の増収効果になるとの試算もあるそうです。
青山氏
次年度の予算化に向けて動く医療機関は増えています。電子カルテベンダーがAI機能を組み込み始めたこともあり、検討内容も「AIを入れるか」ではなく「どの業務負担を減らせるか」に移行しています。
江口氏 実際に多くの医療機関のお話を伺う中でも、AI活用の目的は人員削減というより、人手不足を補いながら既存の人材をより付加価値の高い業務へシフトさせることにあると感じています。医事業務をはじめ、省力化の余地が大きい領域はまだ多く、AIを業務改善の手段として捉える動きが広がっています。
■技術より難しい「使い続けてもらう」仕組み
江口氏 退院サマリーの次の展開として、どのような業務への活用を検討されているのでしょうか。
佐藤氏 看護師の情報収集・情報共有支援を進めています。ただ、新技術はシステムが完成すれば導入できるわけではありません。この案件では本部の認可を得るのに半年ほどかかりました。大きな組織では、承認プロセスも導入速度を左右します。もう一つ重要なのが使いやすさです。汎用AIに毎回カルテのデータをコピー&ペーストする方式では、作業が煩雑になり利用は長続きしにくい。日常業務の中で、できるだけワンクリックで使える形にするなど、簡単に扱えるようにしておくことも必要でしょう。
江口氏 返書作成への活用も進められているとのことですが、退院サマリーなどとは異なる難しさがあるのでしょうか。
佐藤氏 返書はサマリーより難しい。正しく要約するだけでなく、紹介元の医師がどう受け取るかまで考える必要があるからです。AIには事実に基づかない内容を生成するハルシネーションに加え、「シコファンシー」と呼ばれる、相手に過度に寄り添い迎合する傾向があります。医療文書は単に丁寧ならよいわけではありません。返書のように相手がいる文書では、人間関係も踏まえた最終調整が必要で、医師が担う業務として残っていくと思います。
■AI導入で変わる院内ネットワーク
江口氏 AI活用が本格化するにつれて、アプリケーションだけでなく、それを支えるネットワークやセキュリティーの重要性も、これまで以上に高まっていると感じます。実際にデータの流れや通信環境を含めて検討すべき項目も増えてきています。
青山氏 セキュリティーに加え、AIを使うことで通信量がどの程度増えるのか、また、院内のデータがどこに送られ、どこと通信するのかも確認する必要があります。ベンダーに確認し、現在の回線やネットワークで対応できるかを見極めることも重要です。電子カルテで使うAIでも、通信が院内だけで完結するとは限りません。AIのデータセンターとの通信や、システム制御のためにインターネット側へ通信する場合もあります。「何を使うか」と同時に、「何がどこへ流れるか」を把握しておかなければなりません。
佐藤氏 名古屋医療センターは国立病院機構の病院なので、クラウドサービスを使う際には、政府のセキュリティー評価制度であるISMAPに適合しているかどうかを確認する必要がありました。技術的に利用できるだけでなく、組織として採用可能なサービスかという視点が必要です。
江口氏 最近は、メンテナンス回線のファイアウォールやパスワード管理について、病院側から確認を求められることが増えました。一方で、ベンダーが設置した回線を病院自身が十分に把握していないケースもまだあります。リモートメンテナンスの接続時間を限定したり、必要がなければ病院側から切断できるようにしたりする動きも出ています。まず、院内にどのような外部接続があるのかを把握することが重要です。
■AI活用は経営課題として位置付けるべき
江口氏 AI活用の議論が進む一方で、実際に現場へ定着させるためには、安全管理や運用体制の整備が欠かせません。とりわけ医療分野では、こうした体制整備も並行して進めていく必要がありそうです。
青山氏 まず必要なのは自院の現状把握です。医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版では、2027年4月以降に稼働するシステムを新規導入・更新する際、二要素認証または相当する対応を行うとされています。暫定期間には13桁以上のパスワードも示されています。次回更新を見据えて調達計画に織り込む必要があります。また、第7.0版では保守委託先に関する編が新設されました。「ベンダーに任せている」だけでは不十分で、セキュリティー更新などを誰が担うのか、契約書や約款、SLA(サービス品質に関する合意書)まで確認する必要があります。
佐藤氏 AIを使わせなければ安全というわけでもありません。一律に禁止すれば、管理されない「シャドーAI」が使われる可能性があります。病院として安全に使える環境とルールを用意し、人が最終確認する仕組みが必要です。
江口氏 AI活用を進めるためには、利活用の推進と安全管理の両面から取り組むことが重要だと改めて感じました。生成AIは、もはや導入するかどうかを議論する段階ではなく、AI活用を前提に、どのように安全かつ効果的に運用していくかを考えるべきフェーズに入っていると言えそうです。本日はありがとうございました。
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