【淑徳大学 総合福祉学部 社会福祉学科 教授 結城康博】
2019年12月27日に社会保障審議会・介護保険部会でまとめられた、次期介護保険制度改正に向けた意見書「介護保険制度の見直しに関する意見」を読む限り、当初の予想に反して小幅な介護保険制度改正となるようだ。自己負担2割階層の拡充、ケアマネジメントの有料化、要介護1・2の生活援助の給付外しなど、大きな改革案は継続審議となり次々回の議論へ先送りとなった。確かに、利用者の「負担と給付」を考えれば、一時しのぎとはいえ、先送りになったことは安心ということになるであろう。
しかし、細かな点では看過できない改正点もある。
1.地域包括ケアシステムは机上の空論になりかねない
今回、審議会の意見書の第一印象として筆者は、介護人材不足に触れられてはいるものの、抜本的な対策案は打ち出されていないことに危機感を感じた。実際、18年度の介護報酬改定はプラスであったが、主な介護サービス部門の人件費比率は上がっており、収支比率もマイナスとなっている事業者が多い。
これは他産業の給与水準も上がっていることから、介護報酬がプラスになっても労働市場で介護分野が競争に勝ちにくいため(人を集めにくい)、収益をさらに人件費に上乗せしていることが理解できる。収益が下がれば、「介護職の研修費」「職員の福利厚生」「過員となる人材を雇用する」などへの投資が難しくなり労働環境は悪くなってしまう。
特に、国は在宅介護を推進しているにもかかわらず、介護人材不足が深刻化する中で、特に「訪問介護員」(在宅ヘルパー)は危機的状況であり=グラフ=、抜本的な改革の方向性が打ち出されなかった。早急に打開策を講じなければ訪問介護員がいなくなり、「地域包括ケアシステム」は机上の空論になりかねないと考える。
その意味から、喫緊の課題である介護人材対策は、意見書において不十分であったと認識している。
介護労働安定センター「平成30年度介護労働実態調査:事業所における介護労働実態調査結果報告」2019年8月公表、47ページより作成 ※クリックで拡大
2.現金給付の意味するところ
意見書の中で、「現金給付については、介護者の介護負担そのものが軽減されるわけではなく、介護離職が増加する可能性もあり、慎重に検討していくことが必要との意見があり、現時点で導入することは適当ではなく、『介護離職ゼロ』の実現に向けた取組や介護者(家族支援)を進めることが重要である」(意見書35ページ)という箇所を、10年、20年先を見据えた「新たな議論の幕開け」と筆者は考えた。
(残り3005字 / 全4076字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】