聖峰会マリン病院では、年間の給食委託費が2年連続で200万円増え、22年度を基準とすると24年度までの2年で1割上がった。入院患者が2年連続で5%程度増えたことから、委託費の上昇は見込んでいたものの、「肉や魚、野菜など食材費の高騰による値上げは想定以上だった」と井上事務長。さらに米の価格上昇が重くのしかかり、25年度は単純計算で月8-9万円のコストアップになりそうという。
入院時の食費の基準は、直近で2回見直された。24年度診療報酬改定では、食材費など物価の高騰に対応するため、患者負担を1食当たり30円引き上げた。その後も、物価の高騰が進んでいることから、厚生労働省は期中改定を実施。この4月からは入院時の食事療養費が1食当たり20円引き上げられたものの、こうした委託業者からの度重なる値上げ要求などで、食費基準の見直しがあっても一息付けない状況だ。
井上事務長は、「給食委託費がいくら増えようとも、その分を患者に請求することはできないため、非常に苦しい」と訴える。委託会社からは、今年度中に再び委託費を引き上げる可能性があると伝えられ、「これ以上負担が増えれば、経営環境がさらに厳しくなる」と、胸中を吐露した。
一方で、給食業者の経営悪化も深刻だ。全国の病院給食の委託業者など229社でつくる日本メディカル給食協会の担当者によると、25年に収支がさらに悪化し、赤字経営を強いられているという会員の声が数多く聞かれるという。協会では現在、会員企業を対象にここ数年分の給食委託費に関する実態調査を進めており、近く調査結果を踏まえた物価高騰への対応を国に要望する考えだ。給食業者の経営もおぼつかない状況で、一部事業分野からの“撤退”を口にする給食業者もある。
すでに病院給食から撤退のあおりを受けた病院が出始めた。
「これ以上完全委託への対応はできない」。横浜市東部地域の中核病院である済生会横浜市東部病院(562床、横浜市鶴見区)栄養部の工藤雄洋部長(写真)は、10年間の付き合いのあった給食業者の担当者から、こう告げられ、一瞬耳を疑った。委託業者が25年3月末で病院給食からの撤退を決めた。調理スタッフなどの人材確保が極めて困難なことが主因という。
通告を受けたのは23年12月。人員不足により24年4月から一部の給食業務を病院で実施するよう求められた。さらには25年3月の契約満了をもって委託の継続もせず、それまでに次の委託先が見つかるようなら、早々に撤退したいという。それからすぐに他の委託業者探しに奔走した。交渉した業者は3社に。そのうちの1社だけが完全委託への対応が可能だった。ところが24年8月に提出された見積書に工藤部長は目をむいた。見積書に書かれた委託料は、それまでの2倍。「承諾できるような金額ではなかった」。25年3月末のタイムリミットまで、わずか半年ほど。完全委託に対応するほかの業者を探す時間は残されていない。
済生会横浜市東部病院は24年9月には直営化への切り替えを判断。調理スタッフなど必要な人員の総数は約50人だが、25年3月末までの短期間にそれだけの人員確保は困難だとし、盛り付けなどの一部業務だけは委託することに。病院では管理栄養士と栄養士、調理スタッフ10人を何とか確保した。
「当院はそれでもまだ検討する時間があった方だ」と工藤部長。契約書に記載された期間ギリギリで、値上げや撤退の交渉を促す業者も多く、「そういった病院では業者の言い値に従わざるを得ないだろう」と、本音を漏らす。
4月からの直営化に間に合うか、毎日気が気でなかったという工藤部長は、「病院だけでなく委託会社も含めた給食業界の人材不足は深刻だ」と強調する。早朝勤務も含めたハードな業務内容から病院給食の現場で働くことに魅力を感じる若い人は少なく、診療報酬に頼る仕組みでは「この人材不足を解消することは難しい」とも指摘。
事業の撤退を視野にいれる委託会社が増えてきている中、工藤部長は現場の効率化を進めなければ、「病院給食業界は持続できない段階に来ているのではないか」と、強い懸念を口にした。
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