【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
大学病院が存続の危機に陥っている。国立大学病院長会議によると大学病院本院の2024年度の経常損益はマイナス285億円だった。1病院当たりマイナス7億円程度ということになる。もちろん、単年度で赤字だからつぶれるというわけではないが、国立大学という性格から現金を有していない病院が多い。かつて、病院が稼げたころは、大学にとって病院はありがたい存在だったかもしれないが、今や大学のお荷物だと明言される状況である。まして単科大学はその存在すら危うくなる危険水域に達するかもしれない。
■窮余の策“ハッピーマンデーに手術”、そして“入院延長”も
これに対して、取り組みが甘いのではないかという指摘があるのも事実であり、そのようなケースがないとは言えない。ただ、各病院が新入院患者の獲得のためにハッピーマンデーに予定手術を入れたり、救急車搬送入院を積極的に受け入れたり、病院によっては稼働率を優先するため意図的に在院日数を延長するなど痛々しい取り組みをしている。今まで控えめであった二次救急に積極的に取り組むことは、若手の教育という意味において悪いことではないかもしれない。
ただ、大学病院が熱心に高齢者救急に取り組めば、市中病院にそのしわ寄せが必ず来る。また、慣れていない取り組みが時間外手当などの増加につながり、場合によってはやればやるほど収益にマイナスの影響を及ぼす危険性もある。ただ、今の私たちに何かをしないという選択がないのも事実である。救急に取り組んだ結果、予定手術が遅延するなどの悪影響も出るかもしれない。
大学病院もほかの急性期病院と同様、コスト増には悩まされている。これに対して、私たちは、共同購入・共同調達の仕組みを15年度に導入し、今や地域医療機能推進機構(JCHO)や東京都立病院機構なども巻き込み価格交渉などを積極的に行っている。まだまだこれから改善・拡大する余地はあると思うが、規模の経済性という点では一定の評価ができると考えている。
ただ、昨今の物価高騰、人事院勧告などによる給与費引き上げ、働き方改革の影響は甚大である。順法経営を行って黒字にすることは難しい局面にある。むしろ一桁くらいの赤字額であれば、かわいいくらいだというのが昨今の状況である。
■ユニットほぼ毎日100%稼働でも見えないV字回復
グラフ1は、千葉大学医学部附属病院の経常損益の推移だ。
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次回配信は9月上旬を予定しています
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