CBnewsでは、医療経営の厳しい現状や国への要望を病院のトップから募り、緊急寄稿「病院危機」として配信している。第6弾は、亀田総合病院の亀田俊明院⻑。(随時配信)
【医療法人鉄蕉会亀田総合病院 亀田俊明院⻑】
日本の医療提供体制は、持続可能性を根本から問われています。最近、ある雑誌に全国の公立病院の純医業収支を示す赤字ランキングが掲載されました。ほとんどの公立病院が赤字経営に陥っていることは周知の事実であり、それでも存続を可能にしているのは自治体の一般会計、すなわち税金による補填があるからです。
亀田総合病院は民間病院ですが、千葉県南部の基幹病院として、3次救命救急センター、総合周産期母子医療センター、基幹災害拠点病院などのさまざまな公的医療を担っています。公的医療は公立病院が行っているように思われがちですが、実際は多くの民間病院が携わっています。しかし近年では公的医療に関する補助金すら削減傾向にあり、このままでは民間病院が公的医療を担うことは困難と言わざるを得ません。
現行の医療制度の持つ脆弱性は、3つの構造的課題に整理できます。
第1に、診療報酬体系の硬直性です。インフレ政策により施設の整備費用や医療機器の購入費だけでなく、さまざまな経費が想定を超えて上昇する中、医療は公定価格が決められており、勝手に値上げすることはできません。多くの薬剤や検査機器など輸入品に関しては円安問題が大きくのしかかり、もはや経営努力だけでは対応できないレベルに達しています。
第2に、人材確保の困難さです。高齢化で医療ニーズが増大しているにもかかわらず、賃上げができないために他業種への人材流出に歯止めが掛かりません。
第3に、社会保障費の自然増を抑制することが政策目標とされる中、必要な投資が後回しにされ続けていることです。
2024年度は当法人も厳しい経営を余儀なくされました。手術件数の増加で増収だったにもかかわらず、物価高による支出の伸びがそれを上回り、大幅な減益となりました。こうした構造的危機に対応するためには、2年ごとの診療報酬改定では間に合いません。今こそ診療報酬の物価スライド制導入に踏み切るべきです。
そしてもう1つは、長年の懸案となっている医療費の消費税課税問題です。医療サービスは消費税非課税とされ、その結果仕入れ税額控除が認められず、病院が消費税負担を強いられています。当法人の場合、年間総費用約600億円のうち約30億円が控除対象外消費税であり、経営を大きく圧迫しています。これは大学病院や当院のように投資規模の大きい病院ほど不利になる制度のため不公平と言わざるを得ません。医療費を課税対象とし、仕入れ控除を認めることで、税制上の公平性や診療報酬の透明性を高められるはずです。
軽減税率や高額療養費制度などを組み合わせて患者負担を一定に抑えることで、安全で質の高い医療を公平に受ける患者の権利を守りつつ、病院経営の持続性も担保できると考えます。財政負担の透明化と公平性を高める取り組みを推し進めることこそが、わが国の医療提供体制を持続可能なものとする唯一の道だと確信しています。
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