大阪市浪速区、大正区と和歌山県橋本市で3つの介護老人保健施設(老健)を運営する敬英会は、稼働率100%という驚異的な実績を誇る。光山誠理事長は、高い稼働率を支えているのは、「老健に関わる全ての人が何を求めているか」を徹底して考え続ける姿勢だと語る。「介護経営のデザイン」第4回では、厳しい経営環境が続く中でも成果を上げ続ける、シンプルで再現性の高い経営の考え方について話を聞いた。【聞き手/構成・渕本稔】
老健経営に限らず、事業を安定的に運営するために最も大切なのは、全てのステークホルダーの視点に立つことです。
稼働率を高めるには、まず病院から選ばれる老健でなければなりません。その前提となるのが、高い在宅復帰実績が評価される「超強化型」の算定です。病院にとっては、安心してリハビリを任せられ、在宅復帰まで見据えた支援が期待できるため、優先的な紹介先となります。
もう一つ欠かせないのが、スピード感のある受け入れ対応です。急な退院調整にも素早く対応し、入所判定は可能な限り早く行う。紹介依頼は原則として断らない。この姿勢を貫くことで病院との信頼関係が深まり、継続的な紹介につながります。
一方、利用者や家族から選ばれる施設になるには、「自分や親が入所するとしたらどう感じるか」という視点が欠かせません。「人の第一印象は7秒で決まる」と言われますが、それは施設も同じです。エントランスをはじめとした施設全体の清潔感や明るい雰囲気、職員の気持ちの良いあいさつが、「ここなら安心して任せられる」という信頼につながります。
■ 外国人介護人材をいかに確保・定着させるか
介護人材不足は以前から予測されていたため、当法人では20年近く前から外国人介護人材の受け入れを進めてきました。当初から受け入れを進めていたベトナムに加え、現在はネパール、ミャンマー、バングラデシュ、モンゴル、中国へと受け入れ先を広げています。
26年度には、法人全体で129人の外国人材が働き、そのうち約100人が3つの老健に勤務しています。全員が介護福祉士か資格取得を目指す留学生です。
定着のために何より重視しているのも、相手の立場に立つことです。多くの人は家族を支えるために来日しているわけですから、一定水準の給与を確保するとともに、介護福祉士資格取得後には資格手当を支給するなど、努力が収入に結び付く仕組みを整えています。さらに、ほぼ全員に寮を用意し、生活費を抑えることで手取り収入を増やせるような配慮も重要です。
寮では先輩・後輩が共同生活を送るため、介護福祉士資格を取得した先輩が身近な目標となり、後輩が日々の業務や資格試験の勉強に励む好循環が生まれているほか、仕事や生活の悩みに先輩が相談に乗るなど、自然と支え合う環境も出来上がっています。
介護福祉士の配置割合を高めることで「サービス提供体制強化加算」の算定にもつながり、給与水準の向上にも還元できます。介護事業で最も重要な経営資源は「人」です。特に介護福祉士の確保・育成・定着が経営の安定を左右すると考えています。
■在宅支援施設としての強みを生かす
病院や利用者・家族、職員など、それぞれが何を求めているのかを見極めれば、自ずとやるべきことは見えてきます。それと同時に、10年、20年先を見据えた経営も欠かせません。
特に施設の老朽化を見据え、定期的な改修や設備更新を行い、大規模改修を避けるよう長期的な投資を続けています。将来を見据え、逆算して行動する。それが当法人の経営の基本です。
こうした積み重ねにより、当法人の老健ではほぼ100%の稼働率を維持しています。3施設のうち「さくらがわ」(大阪市浪速区)では、20年頃から現在まで100%の稼働率を継続しています。
今後は少子高齢化がさらに進み、老健経営を取り巻く環境は一層厳しくなるでしょう。その中で重要なのは、リハビリを担う在宅支援施設としての強みを最大限に生かすことです。
例えば、要支援1・2の段階からデイサービスを利用してもらい、徐々に利用時間や回数を増やしながらショートステイも活用してもらいます。さらに一定期間の入所を経て、自宅と施設を行き来しながら生活を支えていくのです。こうした継続的な関わりこそが、本来の老健の役割でしょう。その先で特別養護老人ホームへ移る人がいても、それは自然な流れであり、それぞれの施設が果たすべき役割の違いだと考えています。
老健は、自宅で暮らし続けたい人を支えるための施設です。その役割を果たすため、全てのステークホルダーが求めていることに応え続けることこそが、結果として安定した経営につながるのだと考えています。
【取材を終えて】
敬英会が驚異的な稼働率を維持できる背景には、「人にやさしく、全ての関わる人の質の向上を目指す」という法人理念がある。取材を通じて光山理事長が繰り返し語ったのは、「すべてのステークホルダーの視点に立って考える」という経営姿勢だった。まず「顧客は誰か」を明確にし、その顧客が求めることを着実に実践する。そのシンプルな考え方を徹底していることが、高い稼働率という成果につながっている。
さらに、10年、20年先の人口動態などを見据え、人材確保や施設改修を逆算して計画的に進めている点も、安定経営を支える重要な要素だ。やるべきことを論理的かつシンプルに整理し、それを愚直に実践する。光山理事長の介護経営には、一貫した「デザイン」が貫かれている。
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