【ミアヘルサホールディングス 青木文恵代表取締役社長(日本在宅介護協会常任理事)】
訪問介護事業者は、2024年度の介護報酬改定で基本報酬が引き下げられて厳しい事業経営を強いられていますが、やり方によっては利益を出すことも可能だと考えています。取れる加算はしっかり算定し、ある程度の利用者数が見込めるエリアで訪問介護事業を行えば、競争が激しい都市部でも採算が取れると思います。
東京の新宿区にある当社の訪問介護事業所は最初、なかなか利益が出ませんでした。そのため、どうすれば採算がとれるかを検討し、今ではホームヘルパーが自転車で10分程度で居宅に訪問できるエリアを決め、約60人の利用者を対象にサービスを提供しています。メンバーはホームヘルパーの正社員4人と登録ヘルパー5人の計9人体制です。その事業所の売り上げ規模はそれほど大きくありませんが、利益はちゃんと出ています。千葉県の柏市でも同じような事業戦略で展開し、採算はとれています。
特に中小規模の訪問介護事業所は、事業エリアの絞り込み、ドミナント展開が収益化の鍵を握ります。事業エリアを広くすると、ホームヘルパーが移動に時間がかかり1日の居宅訪問が数件に限られるので、得策ではありません。当社は東京を中心に千葉・埼玉・神奈川で介護サービスを展開していて、少なくとも都市部に限ってはそのように感じています。
■スポットワーカーの正式雇用も一法
どの介護サービスでも人材の確保が悩みの種だと思いますが、短期間・単発で働く「スポットワーク」の活用も1つの解決法です。特に訪問系サービスでは、スタッフの急な欠勤や退職、繁忙時間帯、利用者の増加などで「今日だけ」「この時間だけ」人員を確保したい場面があり、そのような時にスポットワークは便利な選択肢です。
当社は2年前からスポットワークを活用し、スポットワーカーに働いてもらっています。事業所が事前の打ち合わせで本人の希望を聞いた上で、働く日時や仕事の内容を決めます。基本的には決めた仕事のみ行ってもらいます。当社の訪問介護事業所で働いているスポットワーカーには、利用者の生活援助を行ってもらっていますが、いずれ身体介護もできるようになってもらいたいと思っています。
また、スポットワーカーが仕事に慣れて正社員として働きたいという希望があれば、正規雇用する方法もあり得ます。当社では、スポットワーカーから常勤の正社員になった人が24年は13人、25年が23人、26年は9月24日現在で8人います。能力や人柄が分からない人を採用するよりも、スポットワーカーとして当社で仕事を覚え、働きぶりや能力、人柄を知っている人を正式に雇用する方が会社としては安心できるし、離職リスクが減ると考えています。人員配置基準を満たしつつ、採用費や人件費を抑制できるのもスポットワーカーの活用のメリットです。
■勤怠管理ソフト導入で残業時間が3分の1に
介護の担い手不足の中でも適切なサービスを提供するには、業務の効率化も欠かせません。当社の事業所では2年ぐらい前から、介護記録や勤怠管理のソフト、見守りセンサー、AIによる議事録作成などを順次取り入れています。当社が運営している全61の介護事業所のうち、居宅介護支援事業所(9カ所)と地域包括支援センター(3カ所)以外は導入済みです。現場のスタッフからは「業務負担の軽減や仕事のやりがいにつながった」という声が上がっています。実際、介護記録ソフトを取り入れたことにより、これまで平均で30-60分かかっていた介護記録関連の業務が約5分で完了するようになりました。
また、これまで事業所のリーダーが他のスタッフの業務シフトを組むのに時間がかかっていたほか、シフト作成で精神的な負担が生じていましたが、勤怠管理ソフトの導入後はそれらの問題が解決されました。導入前は平均で30時間だったリーダーの残業時間は約11時間と、3分の1に減りました。スタッフが希望する日に休暇を取得できるようにもなり、導入により働きやすい職場になったと実感しています。今後はそれぞれの事業所で導入したツールをきちんと使いこなせているか検証していきます。【聞き手/構成・松村秀士】
【取材を終えて】
ミアヘルサHDは、日本の社会保障政策と共に事業を拡大してきた。1966年に学校給食の食材卸売業を開始し、医療計画の条項の中に初めて「薬局」が記載された1985年の医療法の一部改正の前年には調剤薬局事業へ参入。その後、「介護は今後の高齢化社会には不可欠なサービス」だと確信し、介護保険制度がスタートする前年の99年に介護事業に進出した。さらに、少子化対策と子育て支援を強化するための「子ども・子育て支援法」が成立した2012年の前年には保育事業を開始し、現在は主に子育て支援と高齢者支援に注力している。
同社の業績は、26年3月期決算で売上高・経常利益とも過去最高を連続で更新するなど好調だ。「少子高齢化社会の課題に挑戦し、地域社会を明るく元気にする」をミッションに掲げる同社は今後、認知症などの予防事業への展開も検討しているという。現政権が重要施策として位置付ける「攻めの予防医療」に関する各施策が進むと見込まれる中、同社の取り組みに目が離せない。
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