このうち、「介護サービス事業者の経営状況」では、特に介護サービス事業者の収支差率が他の業界と比べて高い状況にあることを踏まえ、15年度の介護報酬改定ではマイナス改定を実現したことを強調。その結果、改定の後には、多くのサービスの収支差率が低下したものの、訪問介護や通所介護などの収支差率は「高水準にとどまっている」と指摘。訪問介護と通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護の収支差率を特に強調した表を示しながら、「適正化・効率化すべきことは実施しつつ、質の高いサービス提供を促す改定を検討すべき」としている。
この表は、厚生労働省が示した16年度の介護事業経営概況調査(概況調査)の結果の中から、特に収支差率が高かったサービスを抽出したものだ。概況調査は、介護経営実態調査(介護実調)と同様、介護報酬改定を実施する際の基礎資料となる。ただし、介護実調より調査対象数が少なく設定されているため、概況調査は介護実調の結果を補足する程度の参考データと位置付けられている。事実、この提言について記者会見した同分科会の土居丈朗委員は、改定の方向性については、介護実調などの結果が明らかになっていないという理由から、明言を避けている。
当然、財務省側もこうした概況調査の位置付けは把握している。それでもあえて、概況調査の結果によって適正化や効率化の必要性を主張するあたりに、「訪問介護や通所介護などの基本報酬は、引き下げ前提で検討すべき」という強い意志が垣間見える。
■特に逆風が厳しいのは小規模の通所か
さらに「在宅サービス」の項目では、規模が小さい通所介護事業所ほど、個別の機能訓練をあまり行わないにもかかわらず、サービス一回当たりの単位数は高くなる傾向があると指摘。その上で、自立支援や重度化防止の取り組みがほとんどない事業所に対しては、規模に関係なく、基本報酬の減算措置も含め報酬の適正化を図るべきとした。
提言では、「事業所の規模にかかわらず」と明記されている。しかし、その提言に至った背景などを思えば、18年度の介護報酬改定で特に強い逆風にさらされるのは、やはり小規模の通所介護事業所ということになるのではないか。
■サ高住、住宅有料ホームで同一建物減算を強化?
「在宅サービス」では、もう一つ、気になる提言がなされている。サービス付き⾼齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料⽼⼈ホームなど、介護保険サービスの指定を受けていない高齢者向け住宅で、必要以上の在宅サービスの提供がなされていないか実態調査を実施した上で、給付の適正化に向けた対応を検討すべきという提言だ。
実態調査の結果については、行ってみないと分からない。だが、この提言の根拠となった大阪府の独自調査によれば、サ高住や住宅型有料老人ホームでは、他の在宅サービスに比べて外部の在宅サービスを利用している人の単位数は「非常に高くなっている」という=グラフ=。
実際にサ高住などにサービス提供をしている事業所の給付の適正化を行う場合、幾つか手法は考えられる。ただし、過剰なサービス提供を抑制するという目的を思えば、よりサービス提供をしやすい立地にある事業所からのサービス提供を抑えようとするのではないか。つまり、既にある同一建物等居住者に対する減算が、特にサ高住や住宅型有料老人ホームにおいて、さらに強化される可能性があるということだ。
■特養は「基本報酬削減、加算充実」の方針?
そのほか、特別養護老人ホームについては、「改定前後で『⿊字を継続している施設』と『黒字から赤字となった施設』を比べると、⿊字継続施設については、改定後の減収幅が⼩さく、質の⾼いサービスに対する加算の取得等に努めたものと推察される」とする文言が盛り込まれた。一見、当たり前の文言だが、あえてこれを盛り込んだ背景としては、たとえ基本報酬を削減しても、質の高いサービス提供によって加算取得を重ねれば、経営は維持できるという“実績”を強調したい財務省側の意図があると考えられる。
報酬改定の議論がまだ本格化していないこの段階で、早くも前回改定の実績を強調していることを思えば、特養については15年度の介護報酬改定と同様、「基本報酬は削り、加算を手厚くする」という方向での検討がなされる可能性が高いといえるだろう。
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