23日の総会では、「医療機関を取り巻く課題」の議論が早速始まり、厚労省は病院の経営が18年度以降に悪化していることを示すデータを出した。
医療機関が本業でどれだけ利益を上げているかを示す事業利益率(コロナ補助金を除く)は、18年度には一般病院が1.4%、精神科病院が2.2%、療養型病院が4.0%のいずれも黒字だった。しかし、19年度以降は低下傾向が続き、コロナ補助金の影響を除くと、23年度は一般病院が2.7%、精神科は1.0%の共に赤字。療養型は黒字幅が1.3%まで縮小した。
また、医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)のデータ分析では、病院のみを経営する法人の23年度の経常利益率は平均プラス2.0%で、22年度のプラス4.6%から悪化した。これに対し、無床診療所のみを経営する法人の23年度の経常利益率は8.8%、有床診のみは4.1%の黒字だった。
診療側の委員からはこの日、厚労省のデータに含まれない24年度の診療報酬改定後に病院の経営悪化が一層深刻化しているとする声が相次いだ。
長島公之委員(日本医師会常任理事)
「診療報酬は公定価格でありコストの上昇を価格に転嫁できないこと、物価・賃金の上昇を踏まえれば、これまでのようなさらにコストを費やすことを前提とする形ではなく、純粋な形で診療報酬を引き上げなければならない状況にあると言える。このことを次回改定に向けた議論のスタートラインとすべきだ」
太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)
「地域の救急を支える基幹病院の多くも既に赤字に転落し、地域の医療提供体制の持続可能性はなくなっている」
太田委員は、これまでの診療報酬改定で国が取った対応が医療機関の経営を圧迫する一因だとも指摘した。
太田委員(医法協副会長)
「過去の診療報酬改定では、医療の質向上や安全性の確保のためにさまざまな入院料の加算などが設定されたが、それらは人員配置などよりコストを必要とする改定がほとんどだった。その結果、医療の質や医療安全の向上は図られたものの、収入の増加以上のコスト増を病院に強いることとなり、経営を悪化させた」
また、茂松茂人委員(日医副会長)は、「2000年代の初めに“医療崩壊”という言葉が出たが、(現在は)その時とは全く事情が違う」と述べ、医療機関や薬局の経営がかつてない厳しい状況にあるとの認識を示した。
茂松委員(日医副会長)
「現場でキャッシュフローが回っていない。これは病院も診療所も一緒だ。薬局もそう」
■鈴木委員「診療報酬はデフレでも上がってきたのでは」
これに対して支払側からは…。
松本真人委員(健康保険組合連合会理事)
「昨今のインフレを踏まえた議論を否定するつもりは全くないが、過去のデフレ期にはどうだったのかを考慮することも必要だ」
鈴木順三委員(全日本海員組合組合長代行)も「デフレの時にはどうだったのか。デフレの時にも(診療報酬は)上がっていたのではないか」と指摘し、医療機関や薬局の収支だけでなく内部留保の実態を確認できるデータを出すよう厚労省に求めた。
厚労省は、医療機関の規模や機能、診療科別の経営実態のデータ分析を引き続き進めるほか、キャッシュフローの状況を示すデータを出せないか検討する。同省の担当者はこの日の総会後の記者説明で、データを準備でき次第、中医協に報告する方針を説明した。
26年度改定での最終的な対応は、政府が6月ごろ決定する骨太方針2025や医療経済実態調査の結果などを踏まえて判断するとみられる。今回の医療経済実態調査では、直近2年度の収支を把握し、11月中旬をめどに結果を報告する。
■財務省「病院と診療所の経営状況は異なる」
一方、この日には財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会が持続可能な社会保障制度の構築を議論し、財務省が医療の改革案を公表した。
財務省はその中で、入院外の受診1回当たりの医療費がコロナ禍の20年度以降に診療所で急増したとするデータを示した。無床診療所のみを経営する医療法人の利益率は、23年度はプラス8.6%で、病院のみを経営する医療法人のプラス2.1%や、中小企業の全産業平均のプラス3.6%を大きく上回っている。
それを受けて財務省は、26年度の診療報酬改定で、病院と診療所の経営状況やコスト構造が異なることを踏まえためりはりの利いた対応を求めた。さらに、病院・診療所間の医師偏在の解消を「喫緊の課題」に位置付け、病院勤務医から開業医へのシフトが起きないよう診療報酬体系の見直しを図るべきだとしている。
ただ、財政制度分科会の増田寛也分科会長代理はこの日に開かれた記者会見で、病院経営の悪化に配慮が必要だとの考えを示唆した。
財政制度分科会の増田分科会長代理
「諸物価や諸経費(の負担増)が効いてきている部分があると思う。そういう大きな環境の変化はきちんと見て、受け止めていく必要があると思う」
財政審は、国の財政運営に関する提言(春の建議)を5月にもまとめる見通しで、財務省は、骨太方針への反映を目指す。
■日医「診療所も経営悪化」、24年度改定後に
さらに、この日には日医の定例記者会見も開かれ、松本吉郎会長は、24年度の診療報酬改定後に病院だけでなく診療所の経営も悪化しているとして、財務省に強く反論した。
この主張は、自民党の社会保障制度調査会に14日に示された医療法人の経営状況のデータが根拠。松本氏は、医療法人の24年度の経常利益率を機械的に推計すると、「赤字の病院と診療所が最も多く分布するなど大変厳しい状況だ」と主張した。
■「自動調整システム」か「物価スライド」か
原則2年に1回の診療報酬改定で、インフレ下の物価や賃金の上昇にどう対応するか。26年度の改定では、これまでにない難問が課題になる。そうした中、骨太方針に向けて医療団体の動きも活発化している。
15の病院団体が参加する日本病院団体協議会は16日、物価・人件費の高騰に診療報酬対応する新たな仕組みの導入や、入院基本料の大幅な引き上げなどを盛り込んだ要望書(第1報)を厚労省に提出した。物価・人件費の高騰に対応する仕組みの例として、診療報酬の「自動調整システム」や「加算制度」を挙げている。
一方、日医が主張しているのは、診療報酬や介護報酬の物価・賃金スライドの導入だ。松本氏は3月5日の定例記者会見で、物価・賃金の上昇だけでなく下がった場合への対応も「検討の対象になる」と述べていた。
ただ、物価の上昇だけでなく低下にも報酬を連動させる仕組みの導入には、病院団体に「病院経営が物価の変動に大きく左右されかねない」という慎重論もあり、各団体が描くイメージが現時点で少しずつ異なる可能性がある。
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