【全国老人福祉施設協議会山田淳子副会長(南魚沼福祉会常務理事)】
国の集計では、特別養護老人ホームの入所者数は「待機者が非常に多い」という状態から、近年は入所需要が落ち着いてきています。
南魚沼福祉会がある新潟県では、国が「ゴールドプラン」や「新ゴールドプラン」を打ち出した1980年代から90年代にかけて特養の整備に力を入れたので、ベッド数はかなり多いといわれています。それもあって、人口減少の速度が速い地域では、ベッド数の減少も既に始まっています。
現在は、多くの特養が損益分岐点と言われる利用率94%の水準をクリアできていますが、今の規模を施設がどこまで維持できるか懸念しています。人材確保の困難さからも、いずれダウンサイジングが進む可能性が高いと考えます。
最近は、複数の社会福祉法人が統合に踏み切るケースも出始めました。経営の困難さや地域のニーズを見据え、持続可能な経営基盤を構築することが重要になります。運営方針や歴史が法人によって異なるので簡単なことではありませんが、社会福祉連携推進法人のスキームを活用するなど、経営基盤・人材確保を共同で強化する流れが今後、加速するかもしれません。
人材不足と高齢者人口が減少する中、将来の介護提供体制をどう描くか、地域全体での調整が不可欠です。
医療では、地域医療構想に基づく役割分担や連携推進の議論がこれから本格化します。介護にそうした枠組みはありませんが、国が7月に公表した地域医療構想の策定ガイドラインには、介護との連携を地域医療構想調整会議で協議するため、市町村や介護関係者の参加が「想定される」と記載されました。それが介護の将来像を議論するきっかけになることを期待しています。
■実習生の受け入れが年1、2人まで減少
全国の介護事業者にとって今、最大の課題が人材確保です。新潟県は首都圏にアクセスしやすいこともあり、人口流出が進んでいます。特に若い人の定着が厳しく、介護現場は人材不足に本当に頭を悩ませています。
当法人の施設では、今から10年ほど前には介護福祉士養成校の実習生を年に4-6人は受け入れていましたが、最近はそれが1人か、せいぜい2人ほどに減りました。
セカンドキャリアとして介護分野に転職する人も減り、人材紹介業者から「人がいない」と言われるほどです。たとえマッチングできても紹介料が非常に高く、施設経営を圧迫しています。
それだけに、介護分野の人材確保はこの仕事の魅力を発信することが、第一歩だと強く感じます。現在は、新潟県をはじめ関係団体が取り組んでいます。県の老人福祉施設協議会や公共職業安定所(ハローワーク)、社会福祉協議会などと協力して介護の仕事のやりがいをアピールすることが必要です。
介護事業の存続は地域全体にとって共通の課題なので、行政と共に施策を検討し、要望していくことも重要です。南魚沼市は、人材確保に向けた就職・定着支援に取り組んでいて、介護分野へ就職した人に各種の支援金が支給されます。
看護職員の確保も大きな課題です。特養は配置基準欠如になると基本報酬が3割減算されてしまいます。当法人の施設では、定年退職や家庭の事情による看護師の退職が2年ほど前から相次ぎ、経営に深刻な打撃が及びかねない状況でした。
■医療との連携が変わる可能性
そんな中、支援の手を差し伸べてくれたのが南魚沼市と協力医療機関でした。看護師の確保には医療現場も苦戦しているはずですが、私たちの相談を受けて市と対応を協議し、この4月から看護師2人が出向という形で勤務しています。「市民と入居者のために」と決断してくださった結果です。
協力医療機関には感染症発生時など緊急時の対応や日々の入居者の健康管理に対応していただけるので、入居者の皆さんは安心して穏やかな生活を送ることができます。私たちは、利用者の変化や気掛かりなことは医師の回診や受診の際にこまめに相談するなど、顔の見える関係作りを意識しています。
介護と医療の連携の姿は、介護情報基盤をはじめとして変化していきます。各地域で拠点的な役割を担う公立病院など医療提供体制の再編が始まり、地域医療構想調整会議で病床削減や診療所への移行も含めて議論が深まることになります。
同じ病院が複数の介護施設の協力医療機関になっているケースもあるので、それぞれ人口減少に対応しながら連携をどう進めるか、手探りすることになりそうです。【聞き手/構成・兼松昭夫】
【取材を終えて】
国立社会保障・人口問題研究所が2023年に行った将来人口推計では、新潟県内の生産年齢人口(15-64歳)は、2025年の114.9万人から40年には89.7万人にまで減る。15年間で22%減というハイペースだ。
高齢者人口(65歳以上)も25年の72.1万人をピークに減少に転じた。40年は69.9万人と、この間に3.1%減少する。人口減少に歯止めが掛かることを見込めない中、介護や医療の現場では、人材不足とマーケット縮小への対応を同時に迫られることになる。
高齢者が地域で安心して暮らせる環境作りには介護施設の存続が不可欠だ。介護の将来像をどう描くか、国を挙げて取り組む必要がある。
現場側も努力を続けている。南魚沼福祉会の特養では、夜勤の負担軽減に最優先に対応するため25年秋、見守りセンサーを全ベッドに設置した。Wi-Fi環境も整備し、厳しい施設経営が続く中、2,000万円近い費用のほぼ全額を持ち出した。
データの蓄積が十分に進めば、夜勤の職員の配置をどの時間帯に手厚くする必要があるのかなど業務効率化を検討するための糸口にするという。
【関連記事】


