みずほ総合研究所
ソーシャルイノベーションコンサルティング部
ウェルビーイング社会実装チーム
マネジャー
片岡 千鶴
■協力医療機関との連携体制整備が義務化
2024年度の介護報酬改定により、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などの介護保険施設では、入所者の病状急変時の相談や求めがあった場合の診療を行う体制を常時確保し、入院が必要な場合には原則として受け入れる体制を整えた協力医療機関を定めることが義務付けられた。その経過措置は2027年3月末までとされている。
改定の狙いについて、厚生労働省は、施設内で対応できる医療の範囲を超えた場合に、協力医療機関との連携の下でより適切な対応を行う体制を確保することとしている。施設利用者の抱える医療ニーズへの対応体制強化が期待される一方で、入所者が医療機関を受診する際に送迎や付き添いを担うのは施設の職員である。全国老人福祉施設協議会が行った2022年度の調査では、特別養護老人ホームの90.5%が入所者の通院の送迎を行い、すべての施設で職員が診察への付き添いや処方薬の受け取りを担っていた。通院者1人当たりに職員がかかりきりになる時間は平均107.2分、最も長くかかった場合の平均は237.8分に及ぶという結果も示されている。
協力医療機関を定めて連携体制を整えても、通院を介助する負担がなくなるわけではない。この負担は、施設の課題として残り続けている。
本稿では、当社が効果検証を支援した実証事業をケーススタディーとして、この通院介助をオンライン診療に置き換えることで何が変わったのかを紹介する。
■ケーススタディー:オンライン診療による医療・介護連携(長崎県新上五島町)
通院介助は、往復の移動や待機を含め長時間の対応を要する。職員の現場離脱による業務圧迫や、入所者の長時間の移動に伴う心身の負担は大きな課題となっている。この課題に着目したMUSVI株式会社・パラマウントベッド株式会社・芙蓉開発株式会社と当社で構成する研究チームは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「介護DXを利用した抜本的現場改善事業」の採択課題として、長崎県新上五島町の特別養護老人ホームと、島内唯一の病院を接続する形で、介護施設内でのオンライン診療実証を行った。
実証では、相手が目の前にいるような臨場感ある映像・音声コミュニケーションを実現するテレプレゼンスシステム「窓」を介護施設・医療機関双方に設置し、「窓」越しにオンライン診療を行った。併せて、施設内で蓄積された各種センサーのライフログデータ、バイタルデータ、介護職員による記録情報を組み合わせた利用者ごとのダッシュボード画面を生成し、リアルタイムで遠隔の医師に共有した。
試行的に内科と整形外科の受診の一部(通院介助全体の約1割)を対象として実証を行い、その前後のタイムスタディーを実施した結果、1回あたり平均3-4時間を要していた通院介助が約20分に短縮され、およそ90%の削減となった。週1回・1名の置き換えだけでも年間約158時間の業務削減に相当する。削減された時間の大半は移動時間と待ち時間であり、実証地域と同様に医療資源が限られる離島や過疎地域での効果は特に大きく見込まれる。もっとも、前掲の全国調査でも通院者1人あたり平均107.2分を要していることから、通院介助の負担は、程度の差はあれども都市部を含めて共通の課題と考えられ、地域を問わず有効なアプローチとなりうるだろう。
また、実証現場からは、「通院介助の回数や時間が減り、ケアマネジャーなどが本来の業務に専念できる時間が増えた」「利用者の外出準備が不要となり、職員・利用者双方の負担軽減につながった」「医療従事者である看護師が診察に付き添う体制が整い、効率性と診療品質の向上につながった」といった声が聞かれた。効率化にとどまらず、ケアの質の向上や、さらには職員満足度向上による離職防止にも寄与する可能性がある。
■医療機関側の協力体制が不可欠
ただし、この取り組みは、介護施設側の努力だけでは成立しない。医療機関側からは、オンライン診療を行うために必要な研修を受講済みの医師が少ないことのほか、オンライン診療を実施する部屋と時間枠の確保、資格確認や会計、院外薬局との処方箋運用といった実務上の課題も挙げられた。医療機関側にも相応の負担が生じる点は押さえておく必要がある。
一方で、夕方にオンライン診療専用枠を設ければ施設からの夜間搬送の低減が期待しうること、介護施設からの受診を夕方に集約すれば日中の一般外来の待ち時間短縮にも寄与する可能性があることなども意見として示されており、「医療機関側にとってのメリット」も考慮した連携体制構築がカギとなるだろう。
協力医療機関を定めるという体制整備にとどまらず、日々の受診を実際にどう支えるかという視点も含めて、施設と医療機関がともに続けられる連携の在り方を探ることが求められている。テクノロジーの活用もその方策の一つとなるだろう。
介護経営に関わるさまざまな課題を未来に向けて深く考察する「介護経営論考」。シンクタンク5社(日本総合研究所・NTTデータ経営研究所・野村総合研究所・みずほ総合研究所・三菱総合研究所)がリレー形式で毎週論ずる。(次回配信は10月9日に三菱総合研究所vol.2を予定)
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