4月に実施された診療報酬改定では、医師の技術料などに当たる「本体」部分と、「薬価・材料価格」を合わせた診療報酬全体を0.19%引き上げた。診療報酬全体での引き上げは、2000年度以来10年ぶりのことだった。政権交代後初となった今回の診療報酬改定では、「入院」と「外来」ごとに医科の改定率を出し、急性期の入院医療に財源を重点配分したのが最大の特徴だ。病院勤務医の負担軽減など急性期病院が抱える課題の解消に必要な財源を捻出するため、診療所の再診料の取り扱いが、08年度の改定に続き焦点になった。
■再診料は診療所を引き下げて統一
診療報酬の点数配分を決める中央社会保険医療協議会(中医協)による議論では、診療側が診療所の再診料引き下げに「断固反対」を主張し、支払側と対立したが、結局は、診療所を2点引き下げる一方、病院(200床未満)は9点引き上げ、4月から69点に統一された。
一方で、診療所が算定する地域医療貢献加算(3点)を新設。休日や夜間など標榜時間外に、患者からの問い合わせや受診に対応できる体制を確保するなどの要件を満たしてこの点数を算定すれば、再診料の引き下げ分をカバーできるようになった。
再診料関連の見直しはこのほか、▽08年度に導入された外来管理加算の“5分要件”を廃止し、診療時間が短くても算定できるようにする▽薬の処方だけのための“お薬外来”をなくすため、診察に基づく医学的な判断などの「懇切丁寧な説明」の実施を引き続き求める―など。
再診料の在り方をめぐっては、12年度に予定されている次の報酬改定に向けて検討することになっており、丁々発止の議論が再び交わされるのは確実だ。
今回の報酬改定で、入院に対する財源の配分を手厚くしたのは、厳しさを増す勤務医の労働環境の改善につなげるため。政権交代を果たした昨年の衆院選で民主党は、地域医療などに貢献する医療機関の入院による診療報酬を1割増やす方針を掲げていた。
負担軽減策の一環として、従来は「ハイリスク分娩管理加算」「医師事務作業補助体制加算」「入院時医学管理加算」の3つの加算の要件に組み込んでいた勤務医の負担軽減計画の策定を、「急性期看護補助加算」「栄養サポートチーム加算」「呼吸ケアチーム加算」「小児入院医療管理料」「救命救急入院料」にも拡大。これらに取り組む病院への評価を手厚くした。
手術料に関しては、外科系学会による「外保連試案」を参考に見直しが行われ、難易度が高く手間がかかり、従来の点数との乖離が大きい手技について、3-5割増しになった。
■「DPCに競争の時代」
今回の報酬改定に対し、日本病院会の堺常雄会長は11月19日の記者会見で、「ようやく一息つけた」という受け止め方。ただし、一連の見直しに伴う病院への影響は一律ではない。東京都内の中小病院の関係者は、報酬改定が行われた直後の5月、「(今回の報酬改定は)病院の持つ機能によって受ける影響が全く違う」と話していた。
中でも、急性期病院など1390施設が参加するDPC制度では、ドラスチックな見直しが行われた。DPC対象病院ごとに設定する調整係数に代わる「機能評価係数2」(新係数)が導入されたのだ。
DPC対象病院ごとに設定する調整係数は今年度以降の診療報酬改定で段階的に廃止し、順次新係数に移行することになっている。その端緒となる今回の報酬改定では、調整係数による上積み部分の4分の1が、「データ提出指数」「地域医療指数」「効率性指数」「複雑性指数」「カバー率指数」「救急医療係数」の6項目の新係数に置き換わった。
今回の見直しは、DPC対象病院の「所得保障的な役割」を担う調整係数に代わり、それぞれの病院が持つ機能に応じた評価を取り入れるためだ。ただ、厚労省が事前に行ったシミュレーションでは、新係数による評価は、大規模病院や特定機能病院ほど有利なことを示す結果だった。
「これからは、DPCの世界も競争の時代に入っていく」―。文部科学省が2月に開いた「国公私立大学医学部長・医学部付属病院長会議」で、厚生労働省保険局の佐藤敏信医療課長(当時)はこう強調した。
新係数6項目の病院ごとの数値は7月までに出そろい、トップの済生会熊本病院(0.0397)と最低の病院(0.0061)に6.5倍の格差が生じたことが明らかになっている。
■基本診療料のコスト把握めぐり舌戦
中医協が答申書に盛り込んだ附帯意見は、▽再診料や入院基本料など基本診療料の在り方を検討し、今回の見直しに伴う財政影響を検証する▽慢性期入院医療の在り方を総合的に検討するため、一般病棟や療養病棟、障害者病棟を含む横断的な実態調査を行う▽明細書の発行状況を検証し、その結果を踏まえて患者への情報提供の在り方を検証する-など計16項目。これらに「できるだけ早急に」取り組むべきだとの意見も付け加えた。
今回の見直しが適切だったかどうかを評価するため、中医協の診療報酬改定結果検証部会が今後、▽救急医療等の充実・強化のための見直しの影響▽外来管理加算の要件見直しおよび地域医療貢献加算創設の影響▽歯科技工加算創設の影響▽後発医薬品の使用状況▽明細書の発行原則義務化後の実施状況―を調査する。 中でも基本診療料の取り扱いが大きな焦点になる。
9月8日の中医協総会では、16項目のうち基本診療料、介護連携、勤務医の負担軽減の3項目の議論を優先することで合意。9月29日には、このうち基本診療料に関する議論がスタートした。 白川修二委員 (健保連専務理事)「また同じ意見の繰り返しで、正直何を言いたいのかが分からない」
西澤寛俊委員 (全日本病院協会長)「理解できないなら、してもらうほかない」
この日の中医協総会では、西澤委員ら診療側が次の報酬改定に向けて、基本診療料に含まれる維持管理費や運営費など各種コストを明確にするための調査の実施を要求。こうした方向に慎重な姿勢を示す白川委員ら支払側と激しいやりとりを交わし、議論は平行線をたどった。
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