東日本大震災の影響を考慮し、今年の医療経済実態調査(医療実調)は延期すべきか、それとも粛々と進めるべきか―。5月18日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協、会長=森田朗・東大大学院法学政治学研究科教授)の総会は、この議題をめぐって紛糾。議論は平行線をたどったまま、次回に持ち越された。来週にも調査票を発送し、6月の調査実施を想定していた当初のスケジュールは、修正も必要になりそうだ。
医療実調は、診療報酬改定の影響などを検証するため2年ごとに実施。得られたデータは、次回改定の議論を進める上で重要な基礎資料となる。今回の医療機関向け調査では、今年6月の単月データに加え、改定前後の2事業年度のデータを集計する。厚生労働省側はこの日、震災を踏まえた対応として、岩手、宮城、福島3県で日本損害保険協会認定の全損地域などにある医療機関は調査対象から除外するなどの措置を提案。総会で了承を取り付けたい考えだった。
■「現時点での実調は無理」―鈴木委員
議論の口火を切ったのは、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)。日医は、来年4月に予定されている診療・介護報酬の同時改定の見送りと今年の医療実調の中止などを求める立場を表明している。これを前提に、鈴木委員は、岩手、宮城、福島3県以外にも震災の影響は及んでいるとした上で、「現時点において実調は行うべきではない。被災3県を除けば前回調査と比較可能な調査ができる、とはならない」と主張。診療報酬改定の議論は、震災の実態を踏まえる必要があるとして、医療実調の予算やマンパワーを被災地の医療復興や震災による影響調査に向けるべきだと訴えた。
■「改定は粛々と行うべき」―白川委員
これに対し、支払側の白川修二委員(健康保険組合連合会専務理事)が反論。「全国規模の調査であり、2年に1度、きっちりやるべきだ。震災の影響は、その結果を見た上で議論すればよい」とし、被災地の医療機関を調査対象から除外したり、分析に震災の影響を組み込んだりすることで対応すべきとの考えを示した。さらに、日医が求める同時改定の見送りに関しては、支払側委員全体の意見として、「診療報酬改定は粛々と行うべき」との見解を表明。来年は6年に1度の同時改定に当たることや、前回改定の影響を検証する必要性に言及し、「(改定を見送れば)失うものが大き過ぎる。なぜ震災復興と同時並行でできないのか、理解できない」と強調した。
ほかの委員からは、「震災後の2011年度分についても、何らかの調査データの追加が必要」(安達秀樹・京都府医師会副会長)、「調査に何かしら工夫しないと、適切な改定ができない」(嘉山孝正・国立がん研究センター理事長)などの指摘はあったものの、「診療報酬改定は来年4月に行われるとの前提で準備する必要があり、医療実調は実施すべき」とする意見が大勢を占めた。しかし、鈴木委員は延期を求める姿勢を崩さず、結局、医療実調の手法や被災地への配慮などについて改めて意見を集約し、近く臨時的に開く次回総会で再度協議することになった。
■調査票は印刷済み
事務局側は終了後の記者説明で、医療実調の調査票が既に印刷を終えていることや、6月実施で総務相の承認を得ていることなどを明らかにした上で、「事務的には(調査票の内容ではなく)送付先や分析・集計をどうするかしかできない」との認識を示した。
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