診療報酬改定に向け、厚生労働省が提出する資料の山…。中央社会保険医療協議会(中医協)では、こうしたデータを基に意見を戦わせるが、改定の行方を左右する数字の取り扱いをめぐり、論争が起こることも。前会長の森田朗氏(国立社会保障・人口問題研究所所長)は、ビッグデータの活用で「現場感覚」を示すことで、「議論のコストや時間を減らすことができる」と指摘する。【聞き手・敦賀陽平】
前会長が明かす中医協の実像(上)-低成長時代、医療費配分は「動脈硬化」
―今のような医療費配分の議論は、限界に近づいているということでしょうか。
そう思います。医療者と保険者による話し合いで公定価格を決める事例は、恐らく海外でも少ないでしょう。中医協では時折、厚労省が行った調査の結果に対して、「現場感覚と違う」といった反論があります。今後は、ビッグデータの活用を進め、客観的なデータに基づいた医療費の配分を行う必要があると考えています。
そのためには、医療用の個人番号を割り振り、患者の健康状態や治療歴などをひも付けできるシステムを構築する必要があります。こうしたデータの集積が進めば、議論にかけるコストや時間を減らすことができるでしょう。
―さまざまなデータを集めることで、議論を効率化できると。
「現場感覚をデータで示そう」というのが、世界的な流れになりつつあります。中医協では「サンプル数が少ない」とか、「このデータとあのデータが矛盾している」とか、数字の取り扱いをめぐって議論になります。双方が争うことがないようなサンプル数で数字が出せれば、それを基に医療費の配分を決めるべきです。
―厚労省は先月、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)に蓄積された情報をオープンデータとして公開しました。
いい傾向だと思います。今後は、匿名化された個票データをクロス集計し、「こういう特性を持つ人はこういう病気にかかる」とか、「こういう薬が効きやすい」とか、治療内容と健診結果との関係が分かるように、もう少し細かなデータを出していただきたい。例えば、デンマークなどでは、一定の条件さえ満たせば、日本の研究者でも向こうの個票データを活用できるそうです。その意味でも、さらに前へ進むための工夫が必要です。
■会議体の見直しも有り得る
―中医協という会議体は今後、どう在るべきだと思いますか。
公的保険の持続可能性が危ぶまれる中、今のままの中医協では、医療費の配分を決める役割を十分に果たせなくなる可能性があります。私自身は、会議体そのものを見直すことも有り得ると思いますが、中医協の機能を変えるというやり方もあるかもしれません。
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