医療情報技師が、医療現場とDX(デジタルトランスフォーメーション)を結び付ける存在として近年注目されています。働き方など待ったなしの“改革”が病院に迫られる中、院内外の関係者とコミュニケーションを取りながら病院DXの推進に奔走しています。CBnewsは、医療現場などで活躍している医療情報技師の横顔に迫る新連載「病院DX推進の旗手たち」をスタート。初回は、資格登場から22年を過ぎた医療情報技師の役割などを改めて日本医療情報学会医療情報技師育成部会長を務める北海道科学大学准教授の谷川琢海氏に聞きました。(不定期掲載)【斯波祐介】
医療関係者の中でITに関する専門知識や常識に精通している人は決して多くありません。逆にIT関係者の中でも医療の専門知識や現場の考え方を深く理解している人は限られています。そこで医療のIT化を担う専門職として医療情報技師という資格が誕生しました。
資格試験が始まった2003年当時は、医療機関へのシステム導入がテーマの中心であり、同じ言語で医療とITの関係者の会話を成立させるための共通の知識が医療現場で必要でした。そこからシステム導入が進み、現在はシステムに蓄積されたデータを利活用して、その知見を次のシステムに生かすことに、医療情報技師の業務の重点が置かれています。育成部会で作る教科書も3年に1度改訂しており、現在の第7版からは医療情報のデータ解析という内容を新たに盛り込みました。
医療情報技師が重点的に取り組む業務内容は時代とともに変わっていますが、医療情報技師が担う本質的な役割は変わらないと思います。大事なことは医療情報システムに関わるIT分野と医療分野の関係者たちがそれぞれ共通の知識を身に付けて、同じ言葉でコミュニケーションをとれるようにすることです。われわれは医療情報技師に必要な資質についてはCommunication(人との会話を通じて相互理解を築ける能力)、Collaboration(さまざまな役割の人々と協調して業務を行える能力)、Coordination(複雑な要素を調整しながら取りまとめる能力)の「3C」であると考えています。 システムのライフサイクルが5-7年周期であるとすると、以前は導入後1-2年で安定運用が確認できれば、その後はある程度の時間的余裕がありました。しかし、現在はそうはいきません。データベースからのデータの出力依頼や、院外のネットワークとの接続、サイバーセキュリティーへの対応など、日常的な個々の作業から長期に渡るプロジェクトまで、病院DXを進めていく中で医療情報技師が担う業務も増えています。
医療情報技師能力検定試験の合格者はこれまでに延べ2万8,000人、さらに医療機関でリーダーシップを発揮して情報化を推進していく役割を担う上級医療情報技師能力検定試験の合格者は延べ558人います。ただ、全国の病院の数を考えると、まだまだ多いとは言えない数字です。全ての病院に医療情報技師の資格を持つ方がいるのが理想と考えています。
日本医療情報学会では、全国規模の学術大会を年2回開催しています。特に秋に行う医療情報学連合学会は4,000人にもう少しで届くほどの大規模なもので、医療情報技師の方も多く参加しています。生成AIや機械学習、政策的な取り組み、病院業務の効率化の取り組み、サイバーセキュリティーといった最新のトレンドを知る場、企業展示やセミナーなどをめぐり情報を収集する場として重要です。
地域や領域ごとの横のつながりによる知識の共有も進んできました。医療情報技師の資格をもった方が、関西、関東をはじめ各地で医療情報技師会を立ち上げて勉強会を開催しています。また、医療分野におけるサイバーセキュリティーを強化するためにCISSMED(Cyber Intelligence Sharing SIG for MEDical)が立ち上がり、医療機関の担当者が参加して、知識・情報の共有のための議論がされています。ここでも医療情報技師の資格を持つ方が活躍しています。医療情報技師同士が顔の見える関係をつくり、情報・意見交換を行っていくことは、実践的なスキルを磨いたり、地域連携でのトラブルを未然に防いだりするうえで大事だと思います。
医療情報技師の今後について、この資格の認知度をさらに高め、多くの人に資格を取ってほしいと思います。資格制度が始まった当初の受検者は、学生時代にコンピュータやネットワークの発展を経験してきた方々が多かったのではないでしょうか。手探りでシステム導入に取り組むなか、話し合える仲間を見付けたり、自己研鑽に励んだりするために、資格試験にチャレンジしていたと想像します。それに比べて現在は充実したIT環境が当たり前となっているので、資格を取ることに対する新たなモチベーションが必要です。例えば、情報システム基盤を継続的に改善し、データの利活用を進めていくことで、医療機関の経営改善に直接貢献できる点など、私たちも資格取得の新たな魅力をアピールしていきたいと考えています。
(次回は大船中央病院・青木陽介氏です)
谷川琢海 氏
北海道科学大学 保健医療学部 診療放射線学科 准教授
一般社団法人 日本医療情報学会 医療情報技師育成部会 部会長
(残り0字 / 全2162字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】